職人・与謝野馨

 「私は政治家・与謝野馨として呼ばれたのではなく、手書き職人として呼ばれたんですよ」-5日のBS朝日『激論!クロスファイア』に生出演した与謝野馨経済財政担当相(72)は、政界全体から批判の嵐を浴びながらも、菅直人首相の要請で入閣した理由についてこう述べた。

 仕事のコンピューター化、デジタル化が急速に進みながらも、コンピューターではどうしても実現できない「職人」の技という領域も確実に存在する。手作り感の持つ職人芸の良さはむしろ見直されてもいる。与謝野氏が持つのは「政策の職人」なのだろう。

 1月14日発足の菅改造内閣で与謝野氏が任命されたのは内閣府特命大臣(所轄官庁を持つ主任大臣や持たない副総理などの無任所大臣と異なり、総合的な政策を担当する大臣)。担当分野は以下の通り。

・経済財政政策
・少子化対策
・男女共同参画
・社会保障・税一体改革

 今の日本全体を覆っているのは大いなる不安だ。将来に対する大きな不安だ。私を含むこれまでの世代は上昇経済に支えられ、今日より良い明日の到来を盲目的に期待できたが、これからの世代は逆に今日より悪い明日しか予感できない状況に身を置いている。このままでは将来に期待できない。期待や希望なくして人は生きられない。

 不安の最たるものが年金だ。年金支給のための必要資金は年間約65兆円。しかも高齢化の進行で、毎年1兆2000億円ずつ増えていく。医療費も同34兆円必要。合計100兆円が要る計算だ。しかし、「中福祉・低負担」の日本の財源はとても足りず、現在は差額のつけを子どもや孫に送っている。

 これをどう解決するか。解決に至る道筋をどう立てるか。社会保障(年金・医療・介護・子育て)を改革するためには裏付けとなる財源がなければ空理空論になるからだ。消費税増税とリンクする。ここに与謝野氏の出番があった。同氏に期待されているのは職人としての政策立案能力だ。

 今回の入閣は、政治家・与謝野馨としては大問題だ。かっての身内だった野党・自民党や直前まで所属していた「たちあがれ日本」だけでなく、民主党内からも「議席泥棒」「変節漢」「権力亡者」「増税職人」と罵詈雑言の嵐だ。

 批判はすべて当たっていると思う。与謝野氏のとった行動を政治家の立場からすれば、許せないはずだ。しかし、問題がそれほど深刻になっているということではないか。このままでは国家破綻しかないのならば、職人に任せるしかないような気がする。要は彼を信頼できるかどうかだ。

 今や政党を信じるのは難しい。与党民主党内部でさえ、小沢一郎氏の評価をめぐって党内が対立し、政策自体も分裂症状態だ。野党自民党も解散・内閣総辞職を主張するだけで、頭にあるのは権力奪還ばかりだ。1つの政党に信を置くのは不可能なのが現実だ。

 こうなれば、政治家個人を信頼するしかない。権力志向を失った政治家はもう政治家と呼べないかもしれない。しかし、なかには傾聴に値する言説と行動を持つ政治家もいるはずだ。十把ひとからげで政治(家)を判断するのではなく、1人1人の政治家の政策と行動をしっかり知らなければならない。こんな基本から始めてみようと思う。

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