『英国王のスピーチ』

 「面白いか」と聞かれると、「面白くはない」と答えるしかない。物事を判断する場合、「面白い」かどうかも重要な基準になることが多いものの、この映画を判断する場合、その基準はふさわしくない。ものすごい活劇があるわけでも、王朝物に付き物の絢爛豪華さも全くない。バッキンガムパレスやウエストミンスター寺院も出てくるが、地味そのものだ。

 「スピーチのできない男が、国王になった―。吃音に悩む英国王ジョージ6世(ヨーク公アルバート王子)が自らを克服し、国民に愛される本当の王になるまでを描いた実話」。彼を立ち直らされたのはオーストラリア人のライオネル・ローグ。スピーチ矯正の専門家・言語聴覚士の看板を掲げるものの、正式な免許すら持っていないもぐりの施療家。

 権威的な専門医とは対照的な、当時科学的とされた治療法とはかけ離れた独自の療法を施し、ジョージと葛藤しながらも彼の信頼を勝ち得ていく。「言葉が出てこないという現象の裏側に幼少期の心の問題が潜んでいる」ことを見抜き、そうした心理的恐怖からくる吃音コンプレックスからジョージを解放していく。

 ジョージ6世が即位したのは1936年12月11日。同年1月20日に即位した長兄エドワード8世がアメリカ人女性ウォリス・シンプソンとの結婚を選択し、戴冠式もしないまま1年足らずで王位を捨てたことを受けた、本人は望まぬ即位だった。3年前にはドイツ首相にヒトラーが就任し、36年にはスペイン内戦が勃発。時代は戦雲を漂わせていた。

 国王の最大の仕事はスピーチ。ローグとの友情・信頼関係を取り戻したジョージ8世は戴冠式での宣誓を乗り切ったものの、チェンバレン首相による対独宥和政策は失敗。ナチス・ドイツのポーランド侵攻を受け、英国は1939年9月3日、ドイツに宣戦布告し、第二次世界大戦が始まった。

 ジョージ6世は同日、本当の国民の王になるため、大英帝国全土に向け、国民を鼓舞する緊急ラジオ生放送での世紀のスピーチに挑む。マイクの向こうのローグ1人に話し掛けるように・・・

原題:THE KING’S SPEECH
2010年/イギリス・オーストラリア合作/118分
第83回アカデミー賞作品賞受賞
          主演男優賞受賞 コリン・ファース(ジョージ6世)
            監督賞受賞 トム・フーバー
            脚本賞受賞 デービッド・サイドラー
池袋シネマロサ1

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