イスラエルはイランを攻撃するか?

イスラエルのバラク国防相(右)とネタニヤフ首相

 

イランの核兵器開発疑惑をめぐる同国と米欧との対立が激化し、あっと言う間にイランの宿敵イスラエルによる「対イラン先制攻撃論」にまで発展した。ついちょっと前までは、イランが原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡を封鎖すると警告、それに対し米欧は軍事行動も辞さない考えを明確にし、緊張が高まったが、それが一段とエスカレート。今度はイスラエルが単独でイラン核施設を攻撃するのではないかとの憶測が飛び交っている。

攻撃を受けたイランは当然、報復攻撃に出るとみられ、そうなると、ホルムズ海峡封鎖は避けられないばかりか、中東全体を巻き込んだ大規模戦争になりかねない。イラク戦争やアフガニスタン戦争とは規模も質も違う本格地域戦争になり、中東原油生産・輸送がストップすれば、世界経済への影響は破滅的に甚大だ。イランや親イラン勢力(レバノンの民兵組織ヒズボラなど)がイスラエルやペルシャ湾岸諸国にある米軍基地(カタール、バーレーン、クウェート)を報復攻撃する可能性も高い。いずれにせよ、イスラム教シーア派勢力を中心に中東全域で火の手が上がる恐れがある。

イスラエルによるイラン攻撃をめぐる憶測に再び火を付けたのはイスラエルの日刊紙イディオト・アハロノトのアナリスト、ローネン・バーグマン氏。今年1月25日発行の米ニューヨーク・タイムズ・マガジン(日曜版別冊)に寄稿した長文の分析記事。同氏は1月13日に2時間半にわたって行ったバラク国防相とのインタビューを含めた情報を踏まえ、「イスラエルが2012年に本当にイランを攻撃すると信じるに至った」と書いた。

 

米ワシントン・ポスト紙

 

さらに米紙ワシントン・ポストのコラムニスト、デービッド・イグネイシアス氏は2月3日付の紙面で、「イランが核爆弾の製造に入る前の4月か5月、あるいは6月にイスラエルがイランを攻撃する可能性が高いとパネッタ米国防長官は確信している」と書いた。パネッタ長官は詳細は述べなかったものの、この記事の内容を否定しなかったと報じられ、イスラエルのイラン攻撃をめぐる憶測が一気に高まった。

イランの核兵器開発疑惑が一気に高まったのは2005年夏に就任したアハマディネジャド大統領が先進国と結んだ「ウラン濃縮中止合意」(03年)を破って、ウラン濃縮を再開したため。核兵器を製造するためにはウラン235の濃度を90%以上に高めた濃縮ウランが必要。同国が主張するように、濃縮ウランを原子力発電所用燃料などの平和利用のためだけに使用するのなら、3~5%程度の濃度に高めるだけでよく、既にそのレベルに到達しているとされる。

それでもイランは濃縮活動をやめないことが国際社会の疑惑を強めている。やめないどころか、09年9月にはそれまでナタンツ1カ所だったウラン濃縮試験施設を新たにもう1カ所建設していることを国際原子力機関(IAEA)に通告した。イラン側は新施設の濃縮レベルは5%までと説明、この程度の低濃縮ウランでは核兵器は製造できない。しかし、IAEAは11年11月、イランが密かに核兵器の開発を続けてきた可能性を強く示唆する報告書を理事会に提出。同国の核兵器開発疑惑を一段を高めた。

報告書はイランが、2000年以降、①首都テヘランの近郊に、核兵器開発のための施設を建設し、高性能爆薬を使った起爆実験を行った②弾道ミサイルに搭載する弾頭の強度を調べるコンピューター実験を行った③イランがこれまでに製造した低濃縮ウランは合計4900kgを超え、核爆弾2個から4個分の原料に当たる-などと指摘した。

イグネイシアス氏は同記事で、イスラエルがイラン攻撃に踏み切る理由として、「イランはすぐにでも核兵器を製造するのに十分な濃縮ウランを深い地下施設に貯蔵するようになり、それに軍事的にストップを掛けることができるのは米国だけになることをイスラエルは恐れている」とし、「ネタニヤフ・イスラエル首相は同国の将来を米国の行動に委ねることを望んでいない」と指摘した。つまりイスラエルは、イランが核兵器を製造できる濃縮ウランを貯め込む前に、単独でイランの核施設を叩き潰すことができるのは今のタイミングしかないと判断しているということだ。

オバマ米政権は基本的にイスラエルのイラン先制攻撃に反対し、国連による経済制裁強化など外交努力による問題解決を目指しており、オバマ大統領も2月5日、イスラエルによるイラン攻撃説を否定した。イスラエルがイラン攻撃情報をリークするのはイスラエルに冷淡なオバマ政権を揺さぶることに真意があり、攻撃情報はイランに対する「揺さぶり」とともに、米国に対する「どう喝」だと指摘する専門家もいる。今年11月には大統領選挙が行われる。イスラエルが米大統領の政治的立場が弱まるこの時期を利用して米国に圧力を掛けることがイスラエルの真の狙いだとみる向きもある。

イスラエルの戦争のやり方は予告なしだ。それが今回は予告した格好だ。どうなるのか分からない。分かっているのは、イランの核兵器開発をめぐって、世界が極めて危険な状況にあることだ。何という恐ろしい時代にわれわれは住んでいることか。

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