『アフガンの男』

CIMG2827

 

書名:『アフガンの男』(上下)
著者:フレデリック・フォーサイス
出版社:角川書店(2008年5月31日初版発行)

どんな力作でも時間が経てば価値が半減する。半減どころかほとんど値が付かなくなる。上下各1700円で販売されたこの本も4年以上経ったせいかブックオフでは各105円の値札が付いていた。著者からすれば、とても許容できない価格だろう。しかし、これが現実だ。

フォーサイスが最初、ロンドンで出版したのは2006年。日本語訳が出たのはその2年後。それからでも既に4年以上が経過している。単なる文芸書ではなく、史実に基づいたノンフィクション的要素も強いので、時間の経過は致命的だ。

本書はイスラム・テロリストの物語だ。テロを煽動しているのはアルカイダの指導者オサマ・ビンラディンだが、作品の発表された当時はまだ健在だった。しかし2011年5月2日、米海軍特殊部隊の急襲を受け、殺害された。それだけで作品の商品価値は無くなったのも同然かもしれない。

しかし、フォーサイスがこの作品で描いたイスラム社会の姿は死んでいない。それどころか、今も連綿と生き続けている。今年1月16日、日本人10人が犠牲になったアルジェリア東部イナメナスのガス関連施設襲撃事件を引き起こしたのもマリで活動するイスラム武装勢力「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ」(AQIM)。どうやら、サハラは「アフガン化」しつつあるようだ。

フォーサイスは下巻所載の解説を書いた作家・真山仁氏に対し、本書の執筆意図について、「イスラム社会の論理を知る上で重要な宗教観について、今回はしっかり書きたかった」と述べたという。「欧米、中でもアメリカ人の多くは、イスラムの人たちを知ろうとすらしていない。そして、誤った先入観に踊らされる。これぞ、悲劇です。まず、正しく理解しなければ、問題の本質は浮かび上がってきません」とも答えたという。

商品としての価値は落ちても、作品としての価値を決めるのは読者がその作品から何を汲み取るかだ。そう考えれば、作品の価値は永遠である。

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *

This site uses Akismet to reduce spam. Learn how your comment data is processed.