「アラブの春」が呼び込んだのは「イスラムの春」だった
NHKスペシャル:『激動イスラム1アラブの春はどこへ~エジプト変質する民主化革命』
アフガニスタンやパキスタン、イランとイラク、エジプトやリビア、アルジェリアとマリなど世界は至るところでイスラムの嵐が吹き荒れている。若者を中心に、ムバラク独裁政権に立ち向かった「アラブの春」が過ぎて2年。独裁者が失った強大な権力を引き継いだのはイスラム勢力だった。
中心的役割を担うムスリム同胞団はイスラム主義に基づく政治経済の立て直しに乗り出した。政治面ではモルシ大統領に権限を集中させる新憲法を成立させた。イスラム教の急進勢力と手を結んで軍を骨抜きにし、国内の反対派勢力を押さえ込みにほぼ成功した。
モルシ大統領は「エジプトと周辺国をイスラム国家に変えていく」と言明した。ムスリム同胞団は「イスラム世界の力を結集した上、世界にリーダーになる」ことを目指している。世界をイスラム勢力の支配下に置くことを明確な目標に掲げている。
ムバラク独裁政権を打倒した若者たちが求めたのは自由と民主義だったが、イスラム勢力の台頭を警戒する人々は「新たな独裁が生まれるのではないか」と懸念している。「ムスリム同胞団は表向きはいい顔をしているが、長い間権力の座に就こうとしていた人たちだから信じられない」とも。
しかし、問題は国内経済の低迷。若者の5人に1人は失業し、生活苦も一向に好転しない。モルシ新政権は米国と接近し、米国からの投資を呼び込むことで突破しようとしているものの、米国など外国資本はイスラム勢力による政権運営を不安視。投資は伸びないのが現状だ。「アラブの春」が呼び込んだのは民主主義ではなく、「イスラムの春」だった。