『アウトサイダー』陰謀の中の人生

 

 

書名:『アウトサイダー』(陰謀の中の人生)
著者:フレデリック・フォーサイス
訳者:黒原敏行氏

英空軍パイロット、ロイター海外特派員、BBC記者。5カ国語をその国の人以上に流ちょうに操り、MI6の協力者としても活躍した人生を初めて明かした。生まれは1938年イギリス。私より10年早い生まれだが、10年早く私が生まれたとしても彼のように生き方をできたとは思えない。

フォーサイスが社会に出るまでの話で大きな比重を占めるのは、戦闘機パイロットになる夢の話だ。イギリスは階級社会であり、彼も支配階級の一員となるべくエリートを養成するパブリック・スクールに送り込まれる。

彼は上流階級ではあく、中流階級の出身だ。父親は1906年に、留守がちな英国海軍曹長の長男として南部のケント州チャタムで生まれた。20歳で造船学校を卒業したとき、世の中は不景気で、5年間は半端な仕事で細々と生活費を稼ぐことを続けたあと、「若者よ、東を目指せ」というスローガンに従い、マラヤのゴム農園に職を得た。

今日から見れば、マレー語を一語も解せず、東洋のことを何も知らない若者が地球の反対側へ派遣され、大勢のマレー人や中国人が働く広い農園を切り回すというのは不可解なことのように思えるが、これは末期とはいえ大英帝国の時代であり、若者がそうした挑戦をするのはごく普通のことだった。

父は荷造りをし、両親に別れを告げ、船でシンガポールに向かった。マレー語を覚え、農園経営とゴム生産に必要な知識を見に付け、5年間、農園を経営した。農園での生活は世間との交わりのない寂しいものだった。楽しみは週に一度、オートバイで南に下り、密林を抜けて、広い道路に出、幹線道路を横切って、チャンギの町へ行くことだった。

父は4年間頑張ったが、やがてこの生活には未来がないことが明らかになった。ゴムの市場が下落していたのだ。ヨーロッパ諸国の軍拡の動きはまだ始まっていなかったし、新しい合成樹脂が益々市場でのシェアを拡大しつつあった。農園の所有者からは、経営者の所有者kらは、経営者の地位にとどまりたければ20%の減給をのむよう通告してきた。独身の経営者は婚約者を呼び寄せるか、英国に帰るかの選択を迫られた。

こうして去就に迷っていた1935年に、あることが起きた。ある夜、雑役係の少年が父を起こしてこう言った。「だんな、村の大工がきている。会いたいそうです」

 

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