日本でも育つ「凍結解凍覚醒コーヒー」のすすめ
農業Week2019の会場(幕張メッセ)をうろうろしていたら、人だかりのしているコーナーがあった。何だろうと思ってのぞいたら、「コーヒーの栽培のすすめ」と銘打った認定農業法人 株式会社アグリジャパン(広島県福山市)のブースだった。
日本国内で流通しているコーヒーは99.99%が輸入品。そもそも国産コーヒーがあるなんて知っている人のほうが少ない。コーヒーは2000m級の高山栽培が普通で、朝晩の寒暖差や温度も必要な上、収穫まで3年以上かかった。検疫(殺虫剤燻蒸)も必要であるし、スペシャルティーコーヒー豆は希少だった。さらには農薬にも依存しており、そもそも国内生産を考える人はいなかった。
世界で流通しているコーヒー豆の品種は大きく分けてアラビカ種とロブスタ種の2種類に分類される。アラビカ種は酸味が強く、花のように甘い香りが特徴だ。これに対しロブスタ種は苦みが強くて渋みがあり、麦茶に似た香ばしい香りが特徴だ。
われわれがよく口にするのはアラビカ種で、一般に売られている豆の6割程度はアラビカ種。原産国エチオピアから広がり、ブラジル、ベトナム(ロブスタ)、コロンビア、インドネシアなど世界60カ国以上で生産されている。
このコーヒー苗を販売しているのがアグリジャパン(津嶋喜久枝社長)だ。会社設立は2017年8月で、岡山市に自社圃場「金甲山コーヒー園」と育苗ハウス「笠岡ハウス」(岡山県笠岡市)を持つ。コーヒーより早くバナナやパイナップルなども苗販売も行っている。
金甲山コーヒー園は岡山市南区に2248平方㍍のハウス面積を持ち、384本のコーヒーを定植している。自動灌水、自動加温設備を設置し、IoT遠隔管理システムを導入している。
アグリジャパンのコーヒーの特徴は耐寒性が強く、倍速以上の成長が期待できる。定植後30年以上の収穫が可能で、既存ハウス活用可能、初期投資を大幅に削減できる。
コーヒー産地は赤道を中心に、北回帰線と南回帰線に挟まれた地域で、熱帯・亜熱帯気候。降雨量も年間1500~2000ミリをキープするエリアのことを「コーヒーベルト」と呼んでいる。
なぜ熱帯性植物のコーヒーが温帯の岡山でとれるのか?それは植物の種子や細胞をマイナス60度で凍結し、種子や細胞に氷河期を疑似体験させ、超ストレスを与えることで遺伝子内に記録された環境情報をリセットする。それにより環境順応性を最大限覚醒させる。
氷河期を乗り越えて世代を植物に着想を得た夢の技術「凍結解凍覚醒法」だ。通常3年以上かかる開花結実期間を1年に短縮し、栽培を始めてすぐにコーヒー豆を収穫できる。
この方法で栽培したバナナはすでに「もんげーバナナ」の名称で1本600円の高価で売られている。「もんげー」は岡山県の地場で「すごい」を意味する言葉。バナナは本来熱帯で育つ植物だが、温帯の岡山県でも栽培されている。
凍結解凍覚醒法を考案したのは田中節三氏。バナナ好きが高じて独学で国産バナナ栽培を開始。本土の気温では不可能と思われたバナナ栽培を2018年3月9日に特許登録し、約40年の歳月をかけて可能にした。
日本でバナナやコーヒーが育つことを証明してみせた田中氏は真冬の岡山で熱帯のバナナができたことを示した『奇跡のバナナ』(学研プラス)も出版。2018年中小企業庁長官賞をはじめメディアへの露出が引きも切らない。