「空き家なんでも相談会」で知った「売却」を判断する「情報」とは何か
親から相続で家を引き継いだ誰も住まなくなったこの空き家を売りたいが、どうすればいいのかー空き家に関してならどんな問題にも無料で相談に乗ってくれる「空き家なんでも相談会」が28日、東京都練馬区役所1階アナトリウムで開かれた。私も兵庫県丹波市に実家があるのでのぞいた。
その古民家は現在、「田舎暮らし」をしたい東京の夫婦に貸しているが、4年間の定期借家なので2年後には戻ってくる。
今回の「空き家なんでも相談会」は司法書士会、土地家屋調査士会、宅地建物取引業協会など専門団体がそれぞれ自分のコーナーを設けて相談に応じた。「無料」「予約不要」「どなたでも」なので、なんでもOKだ。ハードルも低く、来る者拒まずである。
実は練馬区は2015年度以降、空き家の発生予防策の一環としてこうした相談会を毎年開催しており、今年3月にも講演会とセットしたセミナーを開いたばかり。今回は講演会なしの自由な相談会だけだった。
同区の場合、空き家は約15万棟のうち1507棟。空き家率は1%程度(15年5月~16年3月実施の区内全域対象の民間建築物全棟調査結果)。「他の区と比べて多くはないが、少なくもない数字」という。
総務省が9月30日発表した18年の住宅・土地統計調査によると、総住宅に占める空き家の割合は東京都区部(23区)で10.4%と前回調査の13年より0.8%低下したが、1割を超える水準が続いている。練馬区は他区部に比べまだ相当低いが、人口は27年頃にピークに達し、以降減少に転じると思われ、予防策も必要だ。
一方、全国的な空き家は848万9000戸で、空き家率は13.6%と13年から0.1%上昇し、過去最高となった。
国土交通省はこうした空き家動向を踏まえたうえ、空き家の利活用に関するモデル事業を18年度から実施している。国交省の相談窓口事業の事務局として採択され、相談業務に応じているのがハイアス・アンド・カンパニー(東京都品川区、濱村聖一社長、資本金4億3000万円)。
ハイアスは地域の情報に強い全国約170エリア(18年2月時点)の住宅・不動産会社180社超を組織し、不動産の相続に関する知識と顧客の相談に応じることのできる「不動産相続の相談窓口」を運営している。
地域の市場に明るく、不動産の利活用の知恵を持ち、相続の相談にも乗ることができるプレーヤーの存在によって、物件と所有者が離れているケースについてもネットワーク加盟各社が連携することで対応できるのは大きな強みだ。
昨年8月4日に新宿区内で開かれた「地元の空き家解決セミナー」には200人を超える参加者が集まり、首都圏の居住者にとっても「地元の空き家」への関心の高さがわかった。
ハイアスが18年5月から6月にかけて首都圏4カ所で開いたセミナー参加者(70名)を対象に実施したアンケート調査の結果は以下のようなものだった。
Q:空き家を所有、もしくは所有する予定で何が悩みや課題になっているか。
A:「場所が自宅から遠い」がトップで29.1%、2位は「固定資産税がかかる」23.6%、「管理や時間や手間が取られる」18.2%、「草刈りが手間」12.7%の順。
Q:問題を感じている空き家の所在地はどこか。
A:県外57.4%、県内42.6%
Q:該当する空き家はどのように管理しているか。
A:「自分が定期的に管理している」66.7%、その他(物置状態、庭の掃除のみ)28.6%。
Q:所有形態はどうか。
A:単有80.7%、複数人で所有19.3%
Q:今後の対策方法として興味のあるものは?
A:「売却」41.3%、「空き家の利活用」25.3%、「遺産分割対策」12.0%、「認知症対策」12.0%、「生前贈与」5.3%、「その他」4.0%
Q:セミナーへの参加理由は何か?
A:「自身の将来的な対策のため」31.4%、「自身が空き家を所有している」25.6%、「親が高齢のため実家が心配」16.3%。
昨年8月のセミナーで話をしたハイアス連結子会社のKーコンサルティング(千葉県柏市)の大澤健司社長は、居住者が空き家にしておく理由について、「物置として必要だから」「解体費用をかけたくないから」「特に困っていないから」がビッグ3だと指摘。「何となく、お金をかけたくないし、売っても安いだろうし、税金もかかるし・・積極的な理由はないんですよ」と述べた。
大澤社長は、空き家も含めて相続は時間がたてばたつほど解決が難しくなるので、とにかく早い段階で進めるのが重要だとし、「そのうち、そのうち、何とかしないとね」だけでなく、「どうするか」まで具体化しなければならないと強調した。
また、空き家対策は相続対策だとし、相続が発生したからどうするかと考えても決まらない。誰が相続し、誰がこの不動産を管理するのか決めておく必要があると指摘し、親の責任として「親が遺言状を書いておく」必要性を重視した。
また、認知症になると、不動産資産は基本的に凍結になる。売ることもできないし、貸すこともできなくなることを知っておくべきだとも強調した。
大澤社長は売却に興味が集中していることに関し、とにかく不動産の現状と価値を把握する、査定が重要だと指摘した。「とにかく売るんだったらいくらで売れるのかを知らないと話にならない。『何となく』の感覚では話はまとまらない。明確にいくらなら売れるのかという金額がわかれば、どうするかということになりやすい」と述べた。
不動産を資産とするのか、あるいは負動産とするかは所有者次第。この違いは「判断→決断→行動」にあると大澤氏は言う。「決断、行動はけっこうできる。一番難しいのは判断だ。判断するのに一番重要なことは情報だ。不動産に関してどういう手続きが必要で、いくらの価値でどういうふうにすれば解決ができるのかといった情報がないから判断できない」と強調した。
同氏は「ちゃんと解決を図られた方はきちんとした情報を持っている。正しい情報を得ておいて判断をし、決断をし、行動を起こしてもらいたい」と呼び掛けた。
この話を聞いたのは昨年8月。それから1年たった。まだ判断していない。今回セミナーに参加したことであらためて大澤氏の話を考えた。自分のなすべきことを知った思いだ。