靴底剥がれに見舞われた陣馬山ハイキングのトラブル
大学時代の仲間4人でここ数年山に登っている。私は相変わらず初心者の域を出ないが、仲間の1人は100名山を全山踏破し、200名山と300名山も含め400名山近くを歩いている。他の2人も私とは格段の違いのキャリアを持っており、私はかなりの格下だ。
そんな私を気遣ってくれたのかどうか知らないが、今回頂上を目指すのは神奈川県と東京都の都県境にそびえる初心者向けの標高854.8mの陣馬山(神奈川県相模原市)。
彼らの言い分をそのまま引用すれば、「われわれもだんだん高山はつらくなってきている。今日はのんびり行こう」と声をかけてくれた。持つべき者は友である。
藤野駅から陣馬登山口までは神奈川中央交通西バスで10分ほど。急ぐ旅でもなく、登山口に着いたのは午前10時ごろ。天候は快晴で、気温は20度ほど。そこから陣馬山まで予定では1時間40分のはずだった。
ハイキングには打って付けのポカポカ陽気で、これ以上の好天は望めない。しかも季節は紅葉シーズン真っ盛りの秋である。のんびり散策しながら歩くには絶好の条件だった。
実際登り始めはそうだった。しかし、ほんの数百メートルも行ったところで暗転した。私にトラブルが襲ったのだ。歩き出して5分もたたないうちである。”愛用”の登山靴の底がパカッと剥がれてしまったのだ。前日まで関西方面に旅行し土曜未明に帰宅。ベッドに入ったのは午前3時すぎ。起き出したのは昼頃だった。
一応登山靴もチェッしたはずだったが、それを無警戒に履いてきてしまった。うかつもうかつである。
どうすればいいのか分からなかった。それでもまだ登山入り口に近く、物置小屋などがところどころにあった。目をこらして歩いていたら、コードや紐が見つかった。困ったときに必死に探せば、結構見つかるものである。
物を結わえ付けている針金も見掛けたが、ただ勝手にそれを取るわけにはいかない。
紐やコードを巻き付けて歩き出した。しかし途中で実際に地面に触れる靴底のゴムとミッドソールと呼ばれるクッション性能のよい中敷きが靴本体と剥離してしまい、コードで縛っても靴底が前にずれ込んでしまう。
何度か靴を”修理”しながら、だましだまし登るしかなかった。途中で靴底とミッドソールを剥がすことにした。靴本体には柔らかく薄い下底があり、その部分が歩くと石などに当たって痛いのは痛い。痛いと思いつつも耐えられないほどでもないと考えて何とか登った。
それでも陣馬山のような標高の低い山でまだ良かった。これが1000mや2000mの峻厳な山で起こっていたらトラブルでは収まらない。アクシデントになっているはずだ。
山頂には茶店が3店。そのうち富士見茶屋で昼飯のおにぎりをいただいた。途中で1つ食べたので、残りは2つ。それに妻がタッパにリンゴとブドウを詰めてくれた。
水筒に水を入れ、山頂でガスバーナーでコーヒーを入れてくれた。ベテランの友人だ。外で食べるおにぎりや飲むコーヒーは格別。ポカポカ陽気で眠くなった。
このままじっとしていたい。頂上で1時間ほどゆっくりした。
下りは早かったものの、くたくた。里山に降りて栃谷川沿いの舗装道路を独りでとぼとぼ歩いた。駅まで4キロはあるという。16時すぎにバス停にたどり着いた。何と土日は16時台に臨時バスが出ていた。嬉しかった。
藤野駅に着いたのは午後5時頃だった。計画によると、下山時刻は15時。2時間のビハンドだ。辺りはすっかり暗くなっていた。
駅前に寿司屋があった。仲間には迷惑をかけた。とにかく何事もなく完歩できたのは僥倖だった。ベテランの仲間の1人も鳥海山を登山中に同じ靴底剥がれを経験したことがあるという。
登山靴は5年くらいで経年劣化するものだが、その見極めは難しいという。彼は途中で登頂を断念し下山したという。
江戸の都々逸に「いい人は迷惑かける人」という句があるらしい。何とも心優しい。