シンガポールを皮切りに海外事業を加速=今年はハラール市場狙ってマレーシアにも出店したドンキ
■17年にシンガポールに初出店
パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス社(PPIH)海外事業サポート本部の渡辺和博執行役員は9日、開催中の第23回ジャパン・インターナショナル・シーフードショーのセミナー会場で「いまこそ日本の水産品の輸出を世界へ!」と題して同社の海外事業戦略を説明した。
・大きなターニングポイントになったのは2017年12月。シンガポールでドンドンドンキのオーチャードセントラル店をオープン。物件の開発から商品の供給を含めて自社でゼロからスタートした店舗。
・その後タイ、香港、台湾、マレーシア、マカオと出店した。米国事業では高級(プレミアム)スーパー「ゲルソンズ」を傘下に持つGRCYホールディングスをM&Aした。南加州で27店舗を展開している。
■コンセプトは「ジャパンブランド」
・2020年6月期では海外事業の売上高が1000億円だった。新中・長期経営計画として10年後に海外の売上高を1兆円にすると目標を打ち出している。21年は前期1600億円、後期は着地見込みで2500億円のペースで進行している。2年間で2.5倍に成長している。目標の1兆円まで約4倍に近づいた。
・出店状況だが、海外で90店舗を展開。北米およびハワイでは65店舗、アジアでは25店舗。アジアでは出店初年度の売り上げが約15億円だったが、現在は700億円と40倍のペースで成長している。
・店舗のコンセプトは「ジャパンブランド・スペシャリティストア」(日本専門店)。日本製造品を中心に日本マーケット品のみの構成。社名もドンキホーテ・ホールディングスだったが、2019年に商号変更。環太平洋地域における商品供給と出店を含めたサプライチェーンを築いていく当社の決意表明の表れだ。
■サプライチェーンの構築からバリューチェーンの発展へ
・現状の方針。サプライチェーンの構築からバリューチェーンの発展。川上、川中、川下については自社で直接貿易をして商品を供給している。全売上高の40%が自社ならびに関連事業者で輸出入をしている。
・もう1つの特徴は店舗を保有しており、お客の生声、生のにニーズをくみ取ることができる。そちらから商品を探していくといったいわば川下からの逆流戦略を取っていることが1つの特徴だ。
・日本産品を輸出し輸入し販売する。その中で製造面、物流面、販売マーケティング面、サービス面などそれぞれにおいて付加価値をPOPなどにしてお客にお伝えすることでバリューチェーンへと変化させていく。
■30年に1兆円企業を目指す
・2030年に1兆円を目指すが、直近の目標は現在90店舗の海外店舗を2024年6月期においては153店舗体制を目指している。アジア25店舗が76店舗に増やしたい。シンガポールは11店舗から23店舗、マレーシアは現在1店舗だが、11店舗の展開を目指している。米大陸でも12店舗の追加展開を考えている。
・既出店国における7地域での店舗網拡大を考えている。短期的には既出店国で店舗網を拡大していく。EC事業の確立も狙っている。中期には中国も含め新規出店国やASEAN諸国への積極出店を考えている。食材・加食代理店など卸事業(B to B)を確立させたい。2030年にはヨーロッパ含めて全世界展開と想像の段階だがFC事業も確立させたい。
・商品戦略に関しては1品でも多く、1品でも早く日本の商品を海外に届ける前提で協力要請をさせていただく。課題としては国ごとに異なる輸入レギュレーションに対応した商品の開発をメーカーや生産者にお願いしていく。
・長期的には当社のプライベートブランド(情熱価格)を冠した商品で専門店を出店できるほどに成長させていきたい。リテール事業に加えてEC事業、卸事業などあらゆるチャンネルで関係者の皆様と事業を共有させていただきたい。
・苦労して運んだ商品を客にその価値を伝えないと全く意味がない。自社で販促動画を制作している。知っていただくという意味で外食事業も。省庁・自治体などとアライアンスを組んで輸出の強化、コロナが開けたら海外で地域の皆様への送客を組んでいる。
・最終的な目標としては日本食文化の浸透。家庭用食材として日本食の地位を確立したいとの思いとビジョンの中で動いている。KGI(Key Goal Indicater=重要目標達成指標)については売上高1兆円に対して自社輸出3000億円を組んでいる。
■最大のヒット商品は「さつまいも」
・海外事業の販売の特徴は食品の売り上げ構成比が85%。国内は30~50%だが、海外ではいろんなチャレンジを繰り返した結果、日本食を大きな核に据えた店舗づくり。人気となる商品はさつまいも。年間で1000トンを輸出と販売を行っている。焼き芋のヒットから始まったが、コロナが進行することで生芋の売上高においても「ready to eat」に近づく数値結果になってきた。
・青果は果物の構成が45%、野菜55%。コロナ禍の進行において野菜の構成比が徐々に上がってきている。人気のものは旬の果物を旬な時期に販売する点でいちごが一番人気となっている。冷凍品は本まぐろとサーモンが人気だ。アジア18店舗で実績がある。
・日本食を広めていく上で4段階を考えている。食べてもらう、知ってもらう、買ってもらう、調理してもらう。カテゴリーによって進行度の差異があるので、それぞれできることを繰り返している。
・サツマイモについてはわずか1年半で店単価が3倍に上がった。付加価値品、限定品を投入することによって大きく単価が上昇した。
・にぎり、さしみなども大きな前年比の伸びを見せている。売り上げを伸ばすためにうなぎの場合、中国産の大きなもの、マグロであれば地中海産の脂のりの良いものを展開していたが、国産のうなぎ、国産のまぐろ、国産のサーモンを現状その上のアッパーラインとして入れている。カニも海老も同様だ。
・精肉でも和牛の構成が大きく伸長している。近江牛が3.5倍の売り上げとなっている。コロナ禍で外出規制と飲酒規制がある。デリカがすべての分野で大きな伸長を見せている。
・コロナ禍で店単価が大きく伸長している。主食需要が高まることによって顧客がよりよい商品を求める傾向が強くなっている。高品質である日本産品へのニーズも高まっている。家庭用食材として販売を強化していく中でさまざまな商品をトライアルする必要があると考えている。そのポテンシャルも高いので価値を伝達できる商品の提案をお待ちしている。
■使命は日本食文化の浸透
・日本食文化の浸透に向けて行うことは3点ある。1点目は付加価値の伝達。日本産品の美味、健康をお客様に伝えていく。2つ目は知ってもらうことでグローサラント(スーパーマーケットの店内に飲食店を設け、売り場にある食材を用いた料理を提供する)業態の確立。日本料理のレシピ伝道を行う。
・スーパーの店内で、売り場の食材を用いて、料理を提供する業態。この3つの条件が揃うとグローサラントになる。語源はgrocery=飲食店内+restaurant(レストラン)を組み合わせた造語。イオン、成城石井、ヤオコーなどが展開している。
・3点目はSdgsの実践だ。持続可能形態の確立を行う。フルーツの付加価値の伝達では「ふるふる」を取り入れた。ショップインショップを展開している。シンガポール・サンテクシティ店でフルーツコンシェルジュの従業員をふるふるのユニフォームを着て販売員も兼ねている。そこで接客し日本の果物を販売する業態だ。果物の店単価が海外でナンバーワンだ。
・グルーバル動画の自社制作。世界で共通に使えるレシピの動画だ。日本人が作っている。かけそばなど100レシピほど用意している。1分から2分。従業員で動画を作って価値を伝えている。付加価値のポップ。デリカ。大豆油を使ってその特徴を紹介している。
・香港で回転寿司を自社オープンした。鮨ネタとしては90種を提供している。売価は4段階で170円~520円。日本産の米を使い、コメにこだわりを持っている。水槽があることと店内でライブショーを実演。競合回転寿司との違いを打ち出している。
・おにぎり専門店。「富田精米」という屋号で先日シンガポールで開店した。水、塩、海苔、具材、お茶に拘っている。1位博多明太子、2位焼き鮭、3位唐揚げマヨ。日本を代表する食材だ。ワンプレートの和牛ハンバーグ専門店も展開している。日本ではやっている高級食パンも日本の技術を使って展開している。
・台湾ではだんごが人気でSPの3倍、香港の2倍。ダンゴ専門店を4月にオープンする予定だ。
・とにかく海外においては何が売れるか分からないのがまず1点。売れたらものすごくヒットするのが2点。ヒットしたものをさらに掘り下げて専門店を出すことをしている。たくさんの失敗はあるが、果敢な挑戦をしてうまくいったものを残す。残したものをさらに広げていく。この繰り返しに努めている。
・輸出実績がない、高くみえるとか海外では全く関係ない。ストーリーがきちんとお客様に伝えられるか否か。ここが大きな成功の分岐点になる。
・日本産品を海外に供給し続けること。これこそがSdgsだという概念の下で考えている。日本商品に関しては環境に即した商品が多い。ロゴマークはドンドンドンキが環境対応商品として認定したものを使っている。
■ポテンシャル多い海外事業
・PPIHは会員制組織を運営している。アライアンス・リアル商談会も開催している。自治体との取り組みでは鹿児島県、熊本県、愛媛県、和歌山県と包括連携協定を締結している。県産品の輸出拡大では中長期的目標を立てて短期的な目標に落とし込んでいる。
・愛媛県の場合、137品目のうち89品目が香港初上陸となっている。この89品目が売れ目の上位になっている。ここで分かったことは我々が思っている以上に日本産品の認知度が高く初めて流通した商品の感応度は非常に高位であることが分かった。これまでに輸出したことのない商品を広く探している。
・熊本県と組んだメロンフェア、愛媛で採れた柑橘を松山港から供給する。北海道のほたてとホルスタインの混載で北海道から出したりしている。
・海外事業では様々なポテンシャルが存在している。店舗を持っており、実験台として使っていただければ幸いだ。
■ハラルビジネスの世界は広い
ハラルビジネスに特化したコンサルティングを日本企業に提供しているハラルジャパン協会(東京都豊島区)の佐久間朋宏理事長が話をした。
・イスラム教徒(ムスリム)が食べないもの(上に禁じされたもの=ハラム)=豚肉や豚に由来する原材料を含んでいるもの、イスラムの方式に従って屠畜されなかった牛・鶏・羊などの動物の食肉、その動物に由来する原材料を含んでいるもの、飲用アルコール。
・ハラル認証制度は1970年ごろマレーシアで始まったといわれる。ハラル認証団体は世界に300以上、日本でも30以上ある。ハラル認証には世界的な統一基準がまだない。宗派や宗教指導者ごとの見解が異なり、ハラル性についての解釈が異なるためだ。
・今後、商談ではハラル認証を要求される場合が増えそうだ。なぜ水産品にハラールが要るのか。「相手がハラル商品を作る。ハラル認証商品を輸出するので現状ハラル要るよね」。こういうロジックだ。
・ハラル認証はロジックで取ってください。PPIHは完成品も原料も農産品そのものを買って輸出できるが、日本で作るのか海外で作るのか。成分ハラルとは「ノーポーク、ノーアニマル、ノーアルコール」などイスラム教徒が嫌いな成分が入っていないか。
・まず成分ハラルを目指す。東南アジアのバイヤーが「欲しいね」「買いたいね」と言った後で必ず言ってくるのが「ハラル認証取ってくれないと買わないよ」。
・ハラール認証取得は確認したあと。政府や自治体の補助金も出ている。
・認証団体の選定。国際認証。統一基準が1つでない国際認証だ。効果・効能が違う。自分で選ばなければならない。3回認証団体を変えた会社もある。目的が変わればハラル認証も変わる。それができる。ハラル認証取れば売れるわけではない。プロセスが大切だ。
・PPIHはすごい数の商談を行っている。商談数の爆発だ。初めての方もチャレンジしてほしい。
・カニカマ。無茶無茶おいしくない。でもまあまあ高い。こういうものが売られている。しかもハラル認証で。なんちゃっても含めて一杯売られている。
・イスラム教徒の人も買えて中華系の人も買える。この戦略がシンガポールだ。全部ハラルだ。インドネシアは安いけど、練り製品天国。
・タイには2000ほどのハラル認証の工場がある。ハラルというキーワードで日本企業の進出を考えていただきたい。
・30年間日本は給料が上がらなかったが、東南アジアは給料も上がってきて日本のものも買えるようになってきた。