【試写会】行政の組織的過失を認めた「大川小学校津波裁判」ドキュメンタリー映画『生きる』

『生きる』

 

試写会:ドキュメンタリー映画『生きる』大川小学校 津波裁判を闘った人たち
監督:寺田和弘
2022年3月7日@日本記者クラブ

 

■子どもたちはなぜ学校で最期を迎えたのか

 

2011年3月11日午後2時46分。東北地方太平洋沖を震源とするマグニチュード9の巨大地震が日本列島を襲った。

東日本沿岸部の数多くの学校を被災した。しかし、74人の児童と10人の教職員が津波に呑まれ命を失った(児童4人はいまだに行方不明)のは宮城県石巻市にある大川小学校だけだった。

地震発生から到達まで約51分。ラジオや行政の防災無線で情報は学校側にも伝わり、スクールバスも待機していた。

犠牲となった児童23人の遺族は2014年3月10日に提訴。「マニュアルに具体的な避難場所や方法の記載がなく、極めて不十分」などと訴えていた。一審判決は、地震発生後の教員らの対応に過失があったと認定したが、震災前の学校側の防災体制の不備は認めなかった。

なぜ我が子は学校で最期を迎えたのか。この映画はその答えを探し続けている親たちの記録である。

 

■津波が来るまで校庭で約50分とどまる

 

同作品では、訴訟に至る経過や裁判の記録として、石巻市による説明会、避難経路検証の様子など、遺族自らが撮影した映像などが活用されている。

当時、大川小学校の全校児童は108人。地震の直後、児童たちは教員の指導で校庭に集まった。20人余りは保護者が引き取りに来て下校したが、残りは校庭にとどまった。地震が来るまで約50分の時間があった。

「山へ逃げよう」と言った児童もいたが、校庭から動かなかった。津波が押し寄せる直前になって、すぐ裏の山ではなく、反対の川に近い高台へ向かった。そこで川を越えて押し寄せた津波に襲われた。

なぜ校庭にとどまり続けたのか。ここでどのようなやり取りがあったのか。はっきりとした詳しい経緯は今も分かっていない。

 

■「事前防災」の過失を認定したのは初めて

 

裁判を起こしたのは犠牲になった児童74人のうち23人の遺族。石巻市と宮城県に約23億円の損害賠償を求めた。1審、2審とも石巻市と宮城県に賠償を命じたが、判断の内容は大きく異なっている。

仙台地裁は津波が押し寄せる7分前に「市の広報車が、津波が沿岸の松林を超えてきていることを告げた時点で危険は予測できた」と指摘。地震発生後の対応に不備があったとしている。

事前に作られていた市のハザードマップでは、大川小学校は津波の浸水予測範囲に入っていない。このため市や県は「事前に津波は予測できなかった」と主張していた。

ところが2審の仙台高裁は「ハザードマップの予測には誤差がある」と指摘した上で、「校長らは地元の人よりもはるかに高い知識や経験が必要だ」「学校の危機管理マニュアルを改定して備えを充実すべきだった」と判断した。震災前の備え、つまり「事前防災」に過失があったとして賠償を命じたのは初めてとみられる。

市や県は「学校現場に過大な義務を課している」などと主張し上告していたが、最高裁第1小法廷(山口厚裁判長)は、2019年10月10日、2審の結論を維持し、市と県の上告を退ける決定を出した。

震災前の学校の防災体制に不備があったとして、市と県に約14億3600万円の支払いを命じた2審・仙台高裁判決が確定した。裁判官5人全員一致の結論だった。

 

寺田和弘監督

■映画は大川小問題を考えるきっかけにしてほしい

 

上映終了後質疑応答に応じた寺田和弘監督は、「裏山に逃げなかったのは教職員の人間関係が妨げていた」と言っていたが映画の中でそれをもっと掘り下げることはできなかったのかと問われ、「今までそういう点はなかなか表に出てきていない部分である」と指摘。

その上で「大川小の問題を分かっていない人は地元にもたくさんおられる。さまざまな人にまずは見てもらって、疑問を持ってもらって、いったい何があったのだろう。1回現地に行ってみて、そこで自分で考えてもらって、その中から出てくるのはではないか」と答えた。

さらに「考える時間を作りたいと思ってこういう内容にしたが、ご指摘のところは一番大切な部分でこれから日本の社会が一番学ばないといけないことだ」とも語った。

また大川小津波裁判の原告側代理人を吉岡和弘弁護士とともに務めた齋藤雅弘弁護士は、「ご指摘の点が大きな比重を持って悲惨な事故を起こしてしまった原因だと私も確信している」と指摘。「その意味で教育現場の在り方が問われている」というのがこの悲しい事故が提起した問題のかなり大きなポイントではないか」と述べた。

「本来であれば、第三者検証委員会はそこを問題にして、そこを明らかにして、そこの問題を指摘して改善を求めることをやらなければいけなかったはずだが、そうはならなかった。同委員会の信頼性をぶち壊す悪例の1つとして位置付けられても仕方がない」

「裁判の中で明らかにすることも難しい。むしろできない。司法制度の限界がある。問題はここにあるんだよということを少なくても感じていただく。これが寺田監督の映画の意図するものではないか」と述べた。

寺田監督はテレビ番組の制作会社「パオネットワーク」のディレクター。テレビ朝日「サンデープロジェクト」の特集班ディレクターとして『「ビラ配り」逮捕と公安』でJCJ賞を受賞した経験を持つ。

 

齋藤雅弘弁護士

 

■原告が提訴したからこそ「事前防災」の過失が認定された

 

齊藤弁護士は、「現場で子どもの命を守らなければいけない立場にある先生に責任があるかどうか」に対する判断が1審。控訴審は「災害が起きたその瞬間ではなく、それよりもっと前の段階で、こういうことが起きたらちゃんと命を守れるような対応を取っておくべきなのに、それをやらなかったことに落ち度がある」と事前防災の過失を認めた点に大きな違いがあると述べた。

「4キロ離れた大川小まで北上川に沿って津波は来ないとみんな思っている。津波遡上、河川遡上を考えたら堤防壊れたら津波は押し寄せてくる」と話した。

現場過失を問題にすると、先生は悪者になる。その場にいる先生が助けなかったからあなたが悪い。大震災のような大きな災害の場合にどんな人でもその場にいたら、『適切で、合理的で、冷静な判断ができるのか』と問われたら、『できない』と答えるのが大部分だ」。だから平時における準備や対策をきちんとやっておくしかない。

それをきちんとやっておけば、児童だけではなく先生も助かったはずだ。原告がやったからこそこういう判断が出た。遺族たちの大変な努力の賜物でもある。

最後に寺田監督は地元やネットの中でも「先生たちは一生懸命頑張ったのになぜ先生たちを訴えるのか。ひどい人たちだという声がある。原告は先生の責任を求めたのはないという事実をみなさんにまず知ってもらいたい」と話した。

同監督は「誹謗や中傷がなくならない理由の1つは事実を知らないことにもあるとつくづく思うので、(映画を作ることで)それらを無くすきっかけの1つになればいいなと思う」と語った。

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