【試写会】「マイスモールランド」17歳のクルド人・サーリャが日本に居たいと望むことは”罪”ですかー？
主役の嵐莉菜氏
テーマ：マイスモールランド
キャスト：嵐莉菜（サーリャ）、奥平大兼（聡太役）
監督・脚本：川和田恵真
2022年3月14日＠日本記者クラブ
5月6日（金）新宿ピカデリーほか全国ロードショー
■埼玉には2000人のクルド人コミュニティー
「国家を持たない世界最大の民族」と呼ばれるクルド人。埼玉県には2000人ほどのコミュニティーが存在するが、クルド人が難民認定された例はないに等しい。
埼玉に住む17歳のクルド人サーリャ。少し前までは同世代の日本人と変わらない。ごく普通の高校生活を送っていた。だが、難民申請が不認定となり、当たり前の生活が奪われてしまう。
埼玉に住むサーリャは在留資格を失った今、バイトをして、大学に進学し、東京にいる友人と自由に会うことさえ許されない。彼女が日本に居たいと望むことは”罪”なのだろうか－？
正直言ってクルド人のことは知っていても、埼玉県に2000人ものコミュニティーがあることは知らなかった。国を待たない、もしくは国を持つことを許されない民族である。
川和田恵真監督
■川和田監督の商業映画デビュー作
クルド人の少女が「自分の居場所（アイデンティティー）」に葛藤し、成長していく姿を描いた映画『マイスモールランド』。長期にわたる取材を経て書き上げた脚本を自ら映画化したのは新鋭・川和田恵真監督。
川和田氏は2018年の『万引き家族』で第71回カンヌ国際映画祭の最高賞パルムドールを受賞したことで有名な是枝裕和監督の弟子。是枝監督の『三度目の殺人』（17）で監督助手、西川美和監督の『すばらしき世界』（21）でメイキングを担当した。
多くの現場で研鑽を積み、満を持して本作で商業映画デビューした。是枝監督が率い西川監督が所属する映画制作者集団「分福」に在籍する。
川和田監督は試写会に先立ち、「日本に暮らす難民申請者のみなさんの実情を知ったのは5年程前の2016年ごろでした。時間がかかりましたが、彼らの姿を1人でも多くの人に知ってもらいたいとの想いでこの映画を作りました」と語った。
しゃべり出したら止まらないのが映画監督だと思っていたが、全く逆だったので、びっくりしたのが正直な印象だった。
■「日本の今」を見つめながら・・・
川和田監督は本作で、英国人の父親と日本人の母親を持つ自分自身の成長過程で感じたアイデンティティーへの想いを元に、「日本の今」を見つめながら、現代日本が抱える社会問題をフィクションに落とし込み、リアリスティックかつ繊細にスクリーンに焼き付けた。
また思春期の少女と少年の揺れる心の機微や理不尽な状況に置かれた主人公が大きな問題に向き合う凜とした姿を美しい映像で映し出すことによって、誰もが共感する普遍的なドラマへの昇華に成功している。
■主演はViVi専属モデルの嵐莉菜
主人公のサーリャ役を演じるのは、 ViVi(ヴィヴィ、講談社が1983年から発行している女性向けファッション雑誌)の専属モデルとして活躍している嵐莉菜。今回が映画初出演・初主演。
日本、ドイツ、イラン、イラク、ロシアのミックスという5カ国のマルチルーツを持ち、17歳の現役高校生である彼女が、在日クルド人の高校生・サーリャが胸に抱くさまざまな複雑な感情をさらけだした。デビュー作とは思えないほどの堂々とした演技だ。
サーリャが心を開く少年・聡太役には『MOTHER マザー』（20）で新人賞を総なめにし、撮影時には高校生だった奥平大兼。本作では心を寄せる少女の境遇を知り、誠実に真っ直ぐに接する少年を等身大に表現していて見ていて気持ちが良い。
本作の主題歌を手掛けたのは、ポカリスエットや三菱地所のCMなどで立て続けにCMソングを発表しているバンド「ROTH BART BARON」（ロットバルトバロン）。本作のために書き下ろされた『New Morning』の美しい歌声とサーリャの心情に寄り添った歌詞が胸に優しい。
本稿を書きながら主題歌を手掛けたバンドについて調べた。CMソングは恐らくテレビで耳にしているのだろうが、ROTH BART BARONなどと言われてもちんぷんかんぷんなのが実情である。
本楽曲を書き下ろしたROTH BART BARONの三船雅也氏は映画紹介サイト「Real Sound」で面白いことを書いている。
「川和田恵真という人間に会った時、僕は彼女のか細く弱い声の奥底に隠れた魂の綺麗さ、静かに燃える情熱にハッとした。脚本をもらってこの話のためなら、この人の作る作品ならなんだってやりたいとおもった」とコメント。「人々の暮らしを良くするために作られたルールが、誰かを苦しめてしまう。そのこんがらがったこの世界の毛糸の塊が、この映画で1本でも解けることを願う」と語った。
