川上弘美『センセイの鞄』

 川上弘美著『センセイの鞄』(平凡社、2001年6月初版)を読んだ。初出誌は「太陽」(1999年7月号~2000年12月号)。何か、フワフワと、現実感が乏しいながら、しみじみとした長編恋愛小説である。30代後半の「わたし」と小学校時代の国語の担任だった60は越えているはずの松本春綱先生こと、「センセイ」との恋愛小説である。

 愛の形はさまざまなれど、こういう形の愛もありか、と思う。どこの町の話なのか、わたしとセンセイは教師と生徒の関係ではあったものの、全く脂ぎっていない。極めて淡白極まりないのだ。それがまた、とてもよろしい。

 2人は再会して2年。センセイ言うところの「正式なおつきあい」を始めてから3年。それだけの時間を、共に過ごした。大体は同じ町内のサトルさんの店でお酒を飲んでばかり。2人の距離感がたまらなくいいのだ。こういう愛の形が存在することを信じてよいのだろうか。

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