アース・ビジョン第18回地球環境映像祭

 アース・ビジョン第18回地球環境映像祭が東京・新宿区四谷区民ホールで開催されている(5-7日)。全部をじっくり観たかったが、そういうわけにもいかず、6日(土)午後、2本の作品と講演「ミツバチがつなぐ銀座里山計画」を聴いた。

①「食卓と海-水産資源を活かし、守る」(日本/2009/監督・鈴木敏明/35分)
 

 魚や貝、海藻など海の恵みは古くからわれわれの食卓を支えてきた。水産資源の枯渇が世界中で懸念されている今、資源を利用しながら守っている人々の具体的な取り組みを取材する一方、資源を奪い尽くす大規模漁業と、それを必要とする流通・消費の仕組みを分析している。

 海辺の集落が、入会(いりあい)として磯を管理してきた慣習について紹介している。海に生きる人々と、私たちの食卓とのつながりを知り、自然がもたらす恵みと持続的に付き合っていく方法を考える作品だ。鈴木監督は1958年生まれ。東映演出部を経て、現在フリー・ディレクター。

 作品の作り方はびっくりするほど、オーソドックスだ。鈴木監督自身、「ほとんど1人で作った。プロでなくて素人が作った自主映像。勝手に作ったが、それを伝えられる場があった」と述べていた。制作はアジア太平洋資料センター(PARC)。

 彼の発するメッセージは海を破壊して海を埋め立てようとしている業者や行政ではなく、磯を守り、海と共に行き続けようとする人々を応援し、一次産業を守っていこうという意思表示である。メッセージは分かるが、日本の今の漁業の置かれた閉塞状況を突破した先になければならない将来ビジョンは見えなかった。作品としては未熟ではないか。

②「ミツバチのブルース」(オーストラリア/2009/監督・ステファン・ムーア/52分)

 ミツバチが色んな花から蜜を集めてきて蜂蜜を作ることや時々人を刺して傷つけることぐらいは知っているが、世界の食料の3分の1の受粉を担っているとまでは知らなかった。最近、ミツバチ不足で果実の収穫に異変が起きているのがニュースになっていたが、まさか1000億ドル規模の受粉産業を危機的状況に追いやっているとはつゆ知らなかった。

 この作品が取り扱っているのは西洋ミツバチ。ヨーロッパからアフリカ、中近東にかけて分布していた種類を、人類が養蜂に利用するために家畜化したもので、生息地域によって少しずつ形態や性質が違う。日本でも今ではこの西洋ミツバチが主流のようである。

 この西洋ミツバチが今や、農地の工業化や生息地の消滅に加え、寄生し死に至らしめるダニ(ミツバチヘギイタダニ)によって絶滅の危機に追いやられている。絶滅すれば、世界の食料生産が3割以上激減するとなると、一大事である。人類にとって死活問題である。

 寄生ダニはあっという間に世界を制覇し、まだダニが発見されていないのはオーストラリア一カ国になってしまった。同国と並んで、最後まで非汚染地帯だったパプアニューギニアでは新種のダニが発見された。最後の砦・オーストラリアの陥落も時間の問題だという。

 当作品はこのダニの研究に打ち込むオーストラリアのハチ病理学者デニス・アンダーソン博士を中心に据え、環境に対する強力なメッセージを発信している。見ごたえのある作品に仕上がっていた。

③講演「ミツバチがつなぐ銀座里山計画」(田中淳夫・銀座ミツバチプロジェクト世話人)

 東京・銀座のデパートや商業ビルの屋上で、お花畑やお米を作る活動が広がっているという。その先鞭を付けたのが銀座3丁目の紙パルプ会館屋上でミツバチを飼い始めた田中淳夫氏。2006年3月28日に都市と自然環境との共生を目指して「銀座ミツバチプロジェクト」をスタートさせた。

 「最初は蜂蜜が食べたいという不純な動機だったが、地域とのつながりやコミュニティーを広げていくうちに、ミツバチの輪が広がり、地域の活性化にも貢献できるようになってきた。地域の中だけで考えるのではなく、思っていることを他地域と共有していくと夢が実現していく」

 銀座にはこのミツバチに刺激され、その蜂蜜を使ったカステラやケーキ、クッキー、カクテルまで作る人たちも現れ、銀座を里山にする計画が着々と進行中だという。今月8日には農業生産法人を立ち上げ、遂に銀座に農家が誕生するのだという。

 ビジネス色が濃厚で、環境映像祭の本来的な趣旨から離れるような気がするが、経済的に採算が合ってこそ、持続可能な環境経済を確立できる現実論に立脚しているのだろう。兵庫県豊岡市が推進している「コウノトリ米運動」と通じるものを感じた。

 ミツバチは羽化してから死ぬまで30日程度の短い命。大体4平方キロ四方飛べ、集めた蜜を持って帰巣本能で戻ってくる。銀座から5~7分ぐらいで行けるところに浜離宮がある。ソメイヨシノや菜の花、ユリノキ、トチノ木などから蜜を集めてくるという。

 田中氏によると、銀座はどういうわけか、①蜜源が増えている②農薬が使われていない-などミツバチにとっては好ましい条件を備えているという。
 
 世界を席巻する西洋ミツバチが危機的な状況に陥る中で注目されているのが日本ミツバチ。正確には東洋ミツバチ(アジアミツバチとも)と呼ばれ、日本は東端あるいは北限になるらしい。商業的には集密力の高い西洋ミツバチに敵わないなどのためにほぼ駆逐されていたが、ダニをお互いに取り合う習性や病気に強いなどの面が評価され、見直されているという。

 ミツバチプロジェクトが商業ベースのレールの上を走っていることに違和感を感じるが、生産現場から最も遠いと思われた消費文化のメッカ・銀座と地方との間を、ミツバチを媒介して交流・コミュニケーション・コラボレーションを作り上げた発想・着想・構想・実行力・努力は評価したいと思った。

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