加藤嘉一氏@週刊ニュース新書

  「中国で今、最も有名な日本人」としてもてもての加藤嘉一氏(かとう・よしかず)が『週刊ニュース新書』(テレビ東京)に登場した。名前は最近よく聞くものの、本人の話を生で聴くのは初めて。1984年生まれで高校卒業後、北京大学に留学。大学院を修了し、現在は高校で日本語教師をしながら、中国現地メディアのコラムニスト、コメンテーターとして活躍している26歳の若者だ。

 番組を視聴したのは午前中で、尖閣諸島問題で緊張が高まっていた日中関係も何とか沈静化したようにみえた。しかし、そうではなかった。今、このブログを書いている16日夜の時点では成都や西安、蘇州など中国各地で大規模な半日デモが起こったことを伝えるニュースが日本国内を駆け巡っている。

 北京発時事によると、四川省成都市では午後2時(日本時間3時)ごろから、2000人以上の大学生らが「t釣魚島を守れ」「日本製品ボイコット」などと書かれた横断幕を掲げてデモ行進。イトーヨーカ堂の店舗でガラス2枚が割られ、シャッターが壊されたという。

 中国各地の16日午後のデモは東京で同日行われる中国大使館への抗議行動・集会に反発し、数日前からインターネットを通じて呼び掛けられていたという。アサヒ・コムによると、「今回の(中国での)デモは1980年代に生まれた『80後』や90年代に生まれた『90後』と呼ばれる世代の参加が目立つ」という。

 「江沢民前国家主席が主導した愛国教育の徹底で反日感情を植え付けられ、目覚ましい経済成長の恩恵も享受している若い世代の多くは、1972年の日中国交正常化以降に日本の戦争責任を問いながらも、その経済成長には熱いまなざしを注いだ世代とは違う対日観を持っている」としている。

 中国での反日デモも問題だが、それ以上に問題なのは日本のほとんどの大手メディアが東京での反中デモをきちんと報じていなかったことだ。私は大体毎日、NHKの夜9時の「ニュースウオッチ9」をその日の整理のために見ているが、反中デモのニュースは取り上げられなかった。報道することを”自主規制”した可能性が高い。

 このブログを書くに当たっていろんなニュースサイトを検索して初めて、今月2日に東京・代々木公園などで反中デモが行われたことを知った。現役時代ほど目を皿にしていないので見落とし、聞き落としもあるかもしれないが、2日の反中デモを報じたのはCNNやロイター、AFPなど外国メディアばかり。日本の大手メディアはどうやら無視したらしい。

 2日の反中デモを主催したのは市民団体「頑張れ日本!全国行動委員会」などで、代表を務めるのは田母神俊雄前航空幕僚長。政治色の強い団体ではあり、せっかく修復機運が見え始めた日中友好ムードに水を差すとの判断で報道を控えたと思われるが、事実は事実として報道しなかったのは片手落ちと批判されても文句は言えない。

 16日には同じ団体の主催で、尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件をめぐり中国に抗議する集会「中国大使館包囲!尖閣侵略糾弾!国民大行動」が2日に次ぐ第二段として都内で行われ、主催者発表で3200人が参加したという。アサヒ・コムは19時6分に配信しているが、これは18時56分の時事通信社の配信記事を転載したものだ。

 しかし、中国での反日デモの”誘因”が東京での反中デモであった以上、日本の大手メディアも東京での反中デモを無視できないはずだ。日本のメディアの中には、一体どこの国のメディアなのか首を傾げることがままある。相手国の事情を優先させ、自国の国益を放棄した報道にときどきお目にかかる。最近の中国報道は特にそう感じることが多い。

 さて、肝心の加藤氏。中国人をよく理解している1人の日本人として彼の話を聞いていると、中国の本音がよく分かる。加藤氏が中国人の信頼を獲得しているのは上から目線で教えられることをひどく嫌う中国人のプライドを傷つけない配慮をした上で、歴史に対しても真摯に取り組む姿勢を示していることだという。

 中国人と対等な立場に身を置いた上で、ポイントを押えた的確なコメントを速射的にテンポ良く発信する。その辺りが評価されているのだろう。中国人の期待にぴったりフィットするのだ。番組での話し方を聞いていてもそれを感じた。

 加藤氏は「中国人が対日観のディレンマに陥っている」と指摘する。「日清戦争前は中国が上で、同戦争後は日本が上だったが、現在ほど日中のバランスが均衡している時代はない」とのリー・クアンユー・シンガポール元首相の言葉を引用し、「GDPなどでは日本を上回るまで成長しているにもかかわらず、身の回りを見渡せば、日本製品・サービスがあふれ、日本にはとても敵わない現実をみている」からだという。

 加藤氏は日本のテレビメディアとしては今年8月18日のテレビ東京WBSに初めて生出演。そこでも「中国人はプライドが出てきた一方で、コンプレックスもあって、靖国などの問題が出てくると、わっとナショナりスティックになる」とコメントしている。

 中国人はどうも、日本人以上に、外の評判を気にするようだ。人でも国でも自尊心があって当然だ。それが無ければ、存在している理由がない。どうも、今は自信喪失気味の日本と自信過剰気味な中国の力が拮抗している状態のようだ。勢い的には日本の分がどうも悪い。謙譲の美徳を誇る日本人は特にその傾向が強い。中華思想的な中国人には謙譲はどうも美徳でもなさそうだ。

 国民性が合わないのだろう。しかし、それでは相互理解は実現しない。感情的には嫌いでも、「嫌い」で済まされない。付き合っていかざるを得ないのが現実だ。「中国が毎日、どういうことを言うか、気にしながら生きていかないといけないという大変な時代になりましたね」―週刊ニュース新書のキャスター・田勢康弘氏が最後に言った言葉が印象的だった。

 

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