「TPP」とは何ぞや

  新しい言葉は時代が作るものだが、 このところ明けても暮れても新聞・テレビなどのメディアで飛び交っている「TPP」ほど唐突に”急成長”した新語を知らない。しかも、日常的になじみの深い純粋漢語やカタカナ語でもなく、単なる略語だ。

 ウィキペディア英語版によると、「Trans-Pacific Partnership,also known as the Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement or TPP」。日本語版は「環太平洋戦略的経済連携協定」として出てくるものの、「加筆依頼中」で現時点では内容が乏しい。

  TPPは太平洋を囲む国同士で、関税などをなくして自由に貿易をする経済統合を目指す。13、14日横浜で開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)に加盟するシンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイの4カ国で2006年に発効。その後、米国、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシアの5カ国が参加し、今年3月から合計9カ国による政府間交渉が始まっている。目指すのは農産物を含め、2015年をめどとした関税全廃だ。

 統合型オンライン辞書サービス・Weblioの「新語時事用語辞典」に「TPP」が更新されたのは11月3日。kotobank所載の朝日新聞掲載キーワード解説は1年前の貧弱な記事が載っているだけで使い物にならない。恐らく他の用語解説サイトも似たようなものだと思う。つまり、少なくても日本国内ではこれまで「TPP」への関心はほとんどなかった。ほとんどの人が知らなかった。重視されていなかった。

 にわかに脚光を浴びたのは菅直人首相が10月1日の国会所信表明演説で「参加を検討する」方針を打ち出したためだ。それまでほとんど関心を持たれなかったものが、ある日突然脚光を浴びることは全くなくはないにしても、参加推進派が「参加しなければ日本の将来はない」というほどの重大テーマにしては議論はなかったも同然だ。

 日本国内では今年も10月になってやっとTPPが騒がれ始めたが、日本は1989年の発足以来のAPEC加盟国。2002年のAPEC首脳会議でニュージーランド、シンガポール、チリの3カ国がTPPの前身である「経済協力構想」に署名。06年にブルネイを加えたTPPが発効、昨年11月に米国が参加を表明したあたりから、TPPをめぐる動きは風雲急を告げ出した。

 そのあたりからTTP交渉の主導権は米国に移ったようだ。オバマ米政権は来年11月にハワイで開くAPEC首脳会議で、TTP交渉をまとめ上げる考えだといわれる。しかし、日本政府がつい最近まで、日本としてTPPにどう取り組むかの検討をなおざりにしてきたのが実態だ。昨年夏に自民党から民主党への政権交代が実現し、国内対応に忙しく、とても外交どころではなかった。


(13日放映のBS朝日「激論!クロスファイア」、平野達男内閣府副大臣=右、林芳正自民党政調会長代理=左、どちらも参議院議員)


(13日放映のテレビ東京「週刊ニュース新書」、薮中三十二前外務次官)

 今回やっとTPPが注目を集めたのもAPEC首脳会議で日本が議長国として会議を仕切らなければならなかったからだ。いかにも急ごしらえである。ほとんど議論がないまま、国の将来をどたばたで決めなければならない国民はいかにも不幸だ。政権の混迷は国力の低下を生む。悲しいが、これが今の日本の現実なのだろう。

 APEC首脳会議は14日、貿易や投資、物流の障壁のない「共同体」として経済統合を目指す首脳宣言「横浜ビジョン」を採択して閉幕した。APEC域内の経済的枠組みであるTPPや東南アジア諸国連合(ASEAN)+3(日本、中国、韓国)、ASEAN+6(日中韓、インド、オーストラリア、ニュージーランド)を拡大・発展させ、「アジア太平洋自由貿易圏」(FTAAP)実現を目指すことで合意した。

 FTAAP実現を目指す3つの枠組みにも支持勢力が分かれているらしい。中国はASEAN+3を推しているのに対し、中国への警戒感を高める米国はTPP支持を明確に打ち出した。日本は従来、ASEAN+6を提唱していたが、米国に同調する形でTPPに軸足を移した格好だ。まさしく国益を賭けたせめぎ合いが繰り広げられている。

 3つの枠組みがあるとしても、現実に交渉が進んでいるのはどうやらTPPだけらしい。APECは世界の貿易額の44%を占める。これが自由貿易圏になるメリットは大きいと推進派は主張する。日本でも産業界は挙げてTPP推進で一致しているものの、問題は778%の関税で保護されている国内コメ農家対策だ。

 国内農業への打撃を恐れる農水省や全農などの農業関係団体が、「TPP参加は農業崩壊を招く」と反対ののろしを上げた。菅政権内でも慎重論が根強く、菅首相は「協議には参加する」ものの、TPP自体への参加・不参加の判断は先送りせざるを得なかった。

 

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