中国ステルス戦闘機「殲20」の衝撃

 中国がゲーツ米国防長官の訪問に照準を当てたように公開した新型ステルス戦闘機「殲20」(せん20=J20)の試験飛行をめぐって世界の防衛関係者が騒然となっている。仮想敵国・米国国防トップの訪中のしょっぱなに公開をぶつけた上、試験飛行の事実が胡錦濤国家主席にも知らされていなかったことも判明、中国人民解放軍(PLA)が政治指導部の方針に逆らって公開を主導したとの見方を生んでいるからだ。

 中国は今や、米国と並ぶ世界の2大強国の地位を事実上獲得したと言っても過言ではないが、その力の源泉は国連安保理常任理事国としての政治・外交力、日本を抜く世界第2位のGDPを背景とした経済力と並ぶ軍事力の存在だ。とりわけ最近の加速度的な軍事費拡大だ。

 超大国・米国に脅威を与える軍事力としてまず挙げられるのはミサイルによる衛星破壊力。2007年1月11日、地上約850キロの宇宙空間にある気象衛星「風雲1号C」に対し、衛星破壊弾頭を搭載した中距離弾道ミサイルを発射し、同衛星を破壊したことを米政府が確認した。必要があれば、米国や日本の偵察衛星を破壊できる能力を保持したことになる。

 2つ目は米空母を撃沈できる弾道ミサイルが実践配備直前の段階に入ったとみられること。ウイラード米太平洋艦隊司令官は2010年12月27日、朝日新聞とのインタビューで、航空母艦キラーと呼ばれるPLAの対艦弾道ミサイル「東風21D」が初期運用能力(IOC)に到達したと述べた。数年間は試射が必要にしても、実戦配備は近い。

 3つ目が、米国の保有する最新鋭機F22と同様のステルス性を持つ「殲20」試作機の試験飛行。同試作機は今年1月11日に、四川省成都で初の試験飛行を実施したとされる。同機のステルス性はF22に比べ数段劣るとの指摘もあるが、ゲーツ長官も「中国のステルス機の開発速度はわれわれの情報機関の予想より幾分速かった」と認めており、米国にとっては意表を突かれた格好だ。


         (F22 2010年8月21日 横田基地で撮影)

 西側諸国がとりわけ懸念しているのは中国政府指導部によるPLA制服組に対する文民統制の弱さ。北京からの帰路、日本に立ち寄ったゲーツ米国防長官は14日、東京・三田の慶応大学で講演し、11日に胡主席に会った際、同主席ら文民高官は「殲20」の試験飛行を知らされていなかった様子だったと述べ、文民統制の弱さに懸念を表明した。

 中国では毛沢東初代国家主席以降、「民が軍を指揮する」シビリアン・コントロールが定着しているが、どうやらそのパターンが崩れ始めたのではないかという危惧が台頭している。中国共産党指導部が一段と官僚化するに伴い、軍との関係が希薄化し、軍が党と距離を置き始め、独自の判断で動き始めたのではないかとの懸念が強まっているのだ。

 米国防総省はオバマ政権の財政再建方針を受けて、国防予算の大幅削減に取り組んでいる真っ最中。1機当たりコストが3億5500万ドル(約300億円)もするF22の生産は187機で打ち切った。イラク・アフガニスタン戦費が重く圧し掛かっている。

 それに比べ、中国の軍事費はうなぎ登り。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の2010年版年鑑によると、09年の中国の軍事費は前年比で実質15%増の推定1000億ドル(約8兆3000億円)と米国の6610億ドル(前年比7.7%増)に次いで2年連続で世界2位。中国の軍事費は過去10年間で3.17倍になった。

 このペースでいけば、意外に早い段階で中国の軍事費が米国を追い越すかもしれない。経済規模については、2000年購買力平価ベースで2020年には中国が米国を上回り、日本の4倍になるとの予測もある(西村吉正早大教授)ほどだ。

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