独り偲ぶ会

 通夜式が終わった。さてどうするか。駅前のホテルに戻って夕食を取るか。外は小雨が降っていた。去るに去りがたし。会館の回りを歩いたのち、近くの居酒屋に入った。今夜はなるべく遅くまで、彼の近くにいることにした。入った店は独り偲ぶ会にふさわしい、彼の好きだったタバコの煙が天井に沁み込んだ店だった。

 大阪の門真に生まれ、門真で育ち、大学時代こそ東京で過ごしたものの、卒業後はまた郷里の門真に戻り、市内に7校ある中学校のほとんどで教師を務めた32年間。喪主のあいさつは心を打った。

 「父は自分が小さいときは『大変だから、教師なるのはやめとけな』と言っていたのに、5月の連休に珍しく帰ったときには『教師やってて良かった』と言っていた。教師やってたから色んな人と知り合えたし、教師辞めてからも先生って声が掛かるし、あんなに悪かった奴が教師になっていたりする。本当に嬉しいと言っていました」

 独りで彼を偲んでから、もう一度会館に戻った。もう一度、彼の顔を見た。確かに心なしか顔が笑っていた。高校時代のサッカー部のユニフォームや思い出の写真、彼の編集した学級新聞などを見ながら、彼がいかに大勢の人に敬愛されていたかを知った。友人として誇らしい気分だった。

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