「やまと豚」で銘柄豚を考える

秘伝!味噌鍋

 

現役を退くと、年の瀬も寂しい。現役のときはうざったいほどあった忘年会のお誘いもパタッと減り、数えるくらい。義理もなくなり、誘いがないだけ気楽だが、半面、社会的必要性が失せたと考えれば悲しい。しかし、人は何でも引け際がある。いつまでも、おれが、おれがでもない。後ろに退くべき頃合いというものもあってしかるべきだ。

声が掛かるのを待っていても、いつになるか分からないから、自分で忘年会をセットした。回数は少なくても、これをやらないと新しい年を迎える気分にならない。酒蔵「紀州屋」(西新宿1-18-1)。昭和50年(1975)創業。私が大学を卒業した翌年だ。新宿西口に店を構えて36年。古い店だ。居酒屋だから何でもあるが、店が薦めているのは紀州串本漁港の直送鮮魚とやまと豚の紀州味噌鍋。つゆでいただく「つゆしゃぶ」もいいが、この日は創業以来の伝統を引き継ぐ秘伝のレシピで作ったという味噌鍋を試した。

この店で使っているのは「やまと豚」(株式会社フリーデンの飼育する銘柄豚)。お店でもらった同社のパンフによると、完璧な防疫体制に守られた最新設備の大規模工場(群馬、岩手、福島)ですくすく育てられ、①肉質がきめ細かく、柔らかい②脂肪に甘みがあり、かつ風味が良い③調理してもアクが出にくい-のが特徴だという。

私の中にある豚飼育のイメージは、農家が農業の片手間に自分の敷地の養豚場でせいぜい10頭程度の豚を飼っている程度。豚舎は汚れ、その匂いが周辺に漂い、田畑に撒く肥料の糞尿と並んで、「田舎の香水」と呼んだものだが、今はそんな時代ではない。養豚業はれっきとした企業経営の時代で、どうやらフリーデン(神奈川県平塚市)はその草分けの1つらしい。

ただ気になるのは「銘柄豚」の正体。フリーデンの生産する「やまと豚」や直近では六本木ミッドタウン・平田牧場で食べた「平牧金華豚」、さらには新宿歌舞伎町のとんかつ屋「さん亭」が提供する「みやじ豚」(神奈川県藤沢市)などたくさんある。日本食肉消費総合センター作成の銘柄豚肉地図によれば、2005年3月時点の銘柄豚数は何と255。乱立状態だ。

それでも「東京X」や「かごしま黒豚」などはまだメジャーだが、一度も聞いたことのない銘柄豚のほうがむしろ多い。はっきりした銘柄豚の定義もなく、豚の生産地域や環境、飼育管理方法を示す規約すらないブランドもあるらしい。どうやら「名乗った者勝ち」なのが実態のようである。同センターが作成した銘柄情報データは削除されていた。要は銘柄豚に関するきちんとしたデータはどこにもないということだ。一段と賢くなることが消費者には要求されることだけは確かだ。

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