『誰が中流を殺すのか』

Third World America

 

書名:『誰が中流を殺すのか』-アメリカが第三世界に墜ちる日-
著者:アリアナ・ハフィントン
出版社:阪急コミュニケーションズ(2011年11月3日初版発行)

訳者・森田浩之氏が付けた邦題は『誰が中流を殺すのか アメリカが第三世界に墜ちる日』だが、原題に答えが書かれている。政治家だ。映画もそうだが、書名も日本語にすると、原題の持つ本質を衝く問題意識の鋭さや指摘の的確性がどこかに飛んで行ってしまうのだろう。主語が無くなってしまうのだ。

大事なのは「主語」ではないのか。誰がこういう事態を招いたのか。日本語になると、その主語がいつも曖昧になる。広島平和記念公園の原爆死没者慰霊碑の石室前面に刻まれている「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」も「過ち」を犯した「誰」が見事に欠落している。これでは教訓にならない。

原題は「Third World America」。その前に「How Our Politicians are Abandoning the Middle Class and Betraying the American Dream」と付いている。「中流階級を見捨て、アメリカンドリームを裏切っているのは政治家であり、それがどのように行われているか」が書かれている。

彼女はこの本で「ルールを守り、一生懸命に努力すれば、それなりの見返りを与えてくれるアメリカン・ドリーム」を破壊し、アメリカ社会を衰退させた政治家、その政治家とどっぷり癒着している財界人とそのロビイストを名指しで烈しく批判する。

格差が広がる一方で、アメリカの屋台骨である中流層が急速に減っている。このままではアメリカは、「富める者」と「その他大勢の者」という2つの階級だけの国になりかねない。まさに第3世界そのものだ。手をこまねいていれば、アメリカがそうなる日はそう遠くない、とハフィントンは警鐘を鳴らす。

訳者が指摘するように、「本書を読み進めるうちに、ハフィントンの批判する相手はアメリカだけにいるわけではないことに気づく。豊かな者だけが豊かになり、政治の貧困ゆえに中流層が苦しむ。いうまでもなく、それはそのまま日本でも起きていることだ」からだ。

訳者があとがきで、「著者アリアナ・ハフィントンを一言で紹介するなら、『ネットメディアの女王』という言葉がふさわしい」と書いている。1950年、ギリシャ・アテネ生まれ。コラムニスト。ブログメディア「ハフィントン・ポスト」の創設者。16歳のときにイギリスに渡り、ケンブリッジ大学で経営学修士を修める。1980年にアメリカに移住。

訳者によると、アリアナは1986年に共和党の政治家マイケル・ハフィントンと結婚。マイケルは1992年にカリフォルニア州から下院議員に当選。94年に上院議員に立候補するが落選。夫とともに戦ったアリアナは知名度を高め、96年の大統領選挙では共和党のボブ・ドール候補の応援に駆り出された。しかし、97年にマイケルと離婚したころから、アリアナは急激にリベラル寄りになっていく。

ハフィントンはアメリカの現状に烈しく怒りをぶつけながら、一般市民にも国の進む道を変えることはできると強く主張する。そのためには政治や経済の指導者にもっと多くを求めるべきであり、私たち自身もさらに多くの行動を起こさなければならないと指摘する。ただ批判するだけでは現状は動かない。状況を作り出すことが重要だと強調する。

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