『ささやく河』

江戸は「水の町」。伊之助は何と多くの橋を渡ることか。

江戸は「水の町」。伊之助はこの作品の中でも多くの橋を渡る

 

書名:『ささやく河』(彫師伊之助捕物覚え)
著者:藤沢周平
出版社:新潮社(新潮文庫、昭和63年9月発行、昭和60年10月初版刊行)

彫師伊之助を主人公とする藤沢周平のハードボイルド・シリーズ3作目。作家・関川夏央によると、作者はこの作品について、以下のように語っているという。

「伊之助は、元凄腕の岡っ引きで、逃げた女房が男と心中したという過去の影を引きずっており、天真爛漫な岡っ引きではない。半七にしても銭形平次にしてもそういう余分なものはない普通の岡っ引きで、職業として成り立っている人を主人公にしているのですが、この伊之助は岡っ引きが職業ではない。過去とのつながりでもってこつことやっている。

「こういう点も捕物帳の常道とはちょっと違うものになっています。ハードボイドの私立探偵の感覚です。でも、正直に言いますとハードボイルドは少し無理なんで、江戸情緒とつかないところがありますね。日本の風土そのものが湿ったもので、人情などで動くところがあるのに反して、ハードボイルドは非情を前提にしている。

「だからハードボイルドはそんなに強調しない方がいいのではないかという気もしますけれど、この連作の趣旨としてはそういったものが底のほうにあるわけで、よくも悪くもその設定が作品に影響していると思います」(1985年10月号雑誌「波」)

シリーズ第2弾『漆喰の霧の中で』を読んでまだ時間が経たないのに、新作があるのならすぐにでも読みたい。しかも、既に買って手元にあるのならなおさらだ。とても我慢できない。それがその作家に惚れた読者の心理というものだ。

第3弾は第2弾より長い。それなのにすぐに読み終えてしまった。問題は第4弾がないことだ。さて、どうするか。

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