『和食の知られざる世界』

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書名:『和食の知られざる世界』
著者:辻芳樹(辻調グループ代表)
出版社:新潮新書(2013年12月20日発行)

 

著者は料理研究者として名高い辻静雄(1933-1993)を父に持ち、幼い頃から味覚の英才教育を受けてきた人物。今や「和食」は世界から賞賛を集めているが、「和食」の持つ効能を広めたのは日本人ではなく、海外の料理人だった。現在の和食ブームを手放しで喜べない理由だ。

和食を考える場合、「日本という限られた領域の中から『和食』を叫ぶのではなく、広い世界の中での『和食』の存在を考えなければいけない-これが私の見解であり、本書の主張でもある」と著者は書いている。

■「そもそも現在の和食ブームは、日本人の料理する和食が世界に大々的に『発信』されて広まったものではない。もちろん、その努力が各地で行われていることは十分に知っているが、残念ながらその効果が十全に現れた結果とはいえない。むしろ日本以外の『異文化の人々』の味覚や食感が広がり、和テイストの味付け、食材、料理方法等に馴染んでくれた結果なのである」

■「その『広がり』を生んだ理由は、日本人の努力というよりも、むしろ異文化の人々の日本に対する憧れであったり、『低カロリーでヘルシー』という和食の持つ効能を評価してくれた結果であったり、長い歴史を持つ日本という文化への畏怖の念であったりすると私は思っている」

■「今日になると、IT技術の進歩により、世界はグローバル化して料理の世界でも『価値の一極化』が進んでいる。世界中の美食家たちが各種IT端末を使って日々レストラン情報を発信しているし、レストランや料理人たちも情報をどんどん発信している。地理的にファーイーストにある日本だが、その料理文化は、一瞬にして世界中で共有化されるようになったのだ。そういう中で、世界中のレストランや料理人たちが和食に影響されている」

■「世界の料理人にとっては、和食との出会いからすでに五〇年以上がたっている。彼らは日本の料理文化に対してある種の敬意は払っても、自分たちの料理にその技術や食材を取り込もうなどということはよもや考えもしなかった。ところが料理がグローバル化した今日、さまざまな西洋のシェフたちが自分たちの料理に日本の料理文化を同化させようとしている。そこに新しい潮流をつくろうとしている。また、それを求めるお客様がいる」

■「この大きな潮流を知らないのは、むしろ日本人のほうなのかもしれない、という気がする。私が危機感を持つのは、この流れはあまりにも大きな潮流なので、いつの日か日本国内の和食の流れのほうが置いていかれてしまうかもしれない、という点である。日本人が井の中のかわず的な発想でちまちまと和食を考えている間に、世界では、もっと大きな『和食潮流』ができてしまっているかもしれない」

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