中国の軍事戦略

会見する小原凡司氏

会見する小原凡司氏

 

テーマ:中国の軍事戦略
会見者:東京財団研究員/政策プロデューサー 小原凡司(おはら・ぼんじ)氏
2014年8月8日@日本記者クラブ

 

人が変われば、考え方も異なる。国が違うと、発想も対応も変わってくる。武力や軍事力、経済力で現状を自国に都合のいいように変えようとするあまりにも目に余る最近の中国の態度は許せないが、感情的にナショナリズムを発露するだけでなく、中国はなぜあれほどまでに、あからさまな対決姿勢を取るのか、冷静に考えなければならない。

小原氏は1963年生まれ。防衛大卒後、海上自衛隊に入り、飛行隊長、駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海自第21航空隊指令などを経て、2013年1月から現職。外交・安全保障、中国研究が専門だ。

■2014年5月24日、中国空軍SU27戦闘機が、海自OP3Cと空自YS11EBに異常接近した(防衛省)が、中国国防部は25日、「自衛隊機が中国の防空識別圏に侵入し、中ロ合同演習の偵察・妨害を行った」と反論した。中国は「やらなかった」とは言っておらず、「やったけど、それはお前が悪いからだ」という論理を使った。これは「今後もやる」ことを意味している。

■中国は2013年2月、海自艦艇にFCレーダー照射を行ったが、そのときは「やっていない。日本が中国を陥れようとしている」と事実そのものを否定した。これは「もうやらない」という含意だ。「やっていない」という否定は、レーダー照射が非常識な行動であったことを認め、事態の重要性を認識していることを示したものだ。

■習近平主席は今年4月、「空軍増強」を発言し、国営メディアも追随した。これは指導部に予算配分を含めた近年の「海軍重視、空軍抑圧」政策による空軍の不満を抑え込むためだ。海賊対処などの実任務やRIMPAC2014への参加など国際化する海軍に対して、交流機会が少ないこともあって国際的常識を知らなかったり、操縦技量が低いパイロットのいる空軍力を高める狙いがある。

■習近平主席は軍内「反腐敗(江沢民派排除)」の象徴である徐才厚元中央軍事委員会副主席(制服トップ)の党籍を剥奪し、人民解放軍の権力を掌握した。象徴的人物を叩いて、他の者に忠誠を誓わせ、粛正を回避した。江沢民派の牙城の1つで、鉄道利権の巣窟だった鉄道部を解体し、2014年1月に鉄道局を発足させたが、これは組織の格下げだ。

■江沢民元国家主席が率いる上海閥の重鎮で、先に失脚した薄煕来氏と盟友関係だった周永康も失脚させた。周氏は元政治局常務委員で中国指導部の1人で、石油利権を一手に握っていたほか、公安(日本でいう警察)トップだった。残るターゲットは三峡ダムなど水力発電利権を牛耳る李鵬元首相派(李氏は周恩来元首相の養子)といわれる。習近平主席の権力掌握が終われば、経済改革が可能になる。

■中国は「西進」戦略を取っている。沿岸部の経済波及効果は限定的で、機能しないことがはっきりした。内陸部(西部)に経済拠点をおき、経済活動を拡大し、中国に有利な地域情勢の創出を狙っている。

■軍事力比較では米軍が圧倒的な優位に立っている。中国としては米国と軍事衝突することは回避したいと考えている。しかし、国内向けに、米国と厳しく対立している状況を見せる必要があるため、厳しく対立しても、米国が中国に武力行使をしないという保証を必要としている。それが中国の提唱する「新型大国関係」の意味だ。

■中国は米国との「協調的共存」は放棄し、「対立的共存」に転換した。米国は2013年4月のケリー・習会談で、「新型大国関係」の構築に応じており、単純な「反中」(日本の味方)ではない。

■中国の言う軍事衝突回避は、大国間の軍事衝突。小国が邪魔をするのなら、実力行使はやむを得ないと考えている。小国との衝突より怖いのは国内の批判だ。政敵に利用されるからだ。

■中国が練習空母「遼寧」を就役させたり、少なくても新たに空母2隻を建造しているが、米軍と交戦することを想定したものではない。駆逐艦やフリゲート艦、原子力潜水艦の整備にも熱心だが、これらは自国に有利な軍事情勢を作り出す軍事プレゼンスを意図したものだ。

■米軍の技術的優位は減少傾向にある。米中双方ともマッハ5以上で飛翔する「極超音速滑空ミサイル」(Hypersonic Glide Vehicle)の開発に注力している。米軍はHTV2、人民解放軍は WU-14だ。

■HGVは核兵器と通常兵器の中間に位置し、大量破壊を伴わない利点がある。米国(あるいはロシア)にとっては核兵器廃絶の切り札だし、中国にとっても劣勢な核兵力を補う武器。核兵器はあくまで抑止力で、大量破壊を伴うので使用のハードルが高い。

■「Network Centric Warfare」(ネットワーク中心の戦闘)が進むことになろう。(ウィキペディアによれば、「ネットワーク中心コンピューティングのコンセプトを軍事に応用したもので、高次の情報ネットワークによって情報を伝達・共有することで、意思決定を迅速化するとともに、戦力運用を効率的に行うことを目的とする)

ネットワークが探知~識別~追尾~攻撃目標割り当て~攻撃を行うもので、人間の意志を介さない軍事行動だ。これは集団的安全保障の概念を超える。ターミネータの世界の出現を意味する。

■中国のサイバー攻撃は従来、先端技術の獲得やサイバー・エスピオネージなど産業スパイが中心だったが、現在のターゲットは国家安全保障上の問題や、軍事情報の保護など通信部門。目的が変わってきている。

■中国は米国が開発したインターネット空間とは違うサイバー空間を作ろうとしているが、まだできていない。そのため、当面はインターネット空間でのサイバー戦が激化するだろう。

■中国人民解放軍はこのほど、3カ月にわたる大規模防空演習を実施し、2014年7月20日~8月15日には東部空港のフライト数を25%減らすよう民間航空会社に要請した。江沢民-胡錦濤時代に弱体化し、統合演習が実施できる状態でなかった軍を、軍と手打ちを終えた習近平が基本訓練からたたき直し、戦える軍隊に鍛え直すことを意図したものだ。

■人民解放軍は装備品自体は近代化しても、システムは弱い。訓練も十分できていない。

■中国指導部の目標は①共産党による長期安定統治②継続的経済発展(富の一部再分配、社会の不満解消)。目標達成のために、「米中対立的共存」と「権益追及」を目指している。

■中国は日本を「小国」と位置づけている。これは国内の対日強硬派を押さえ込むためだ。実際には軍事的にも経済的にも無視できない規模の国と考えている。

■中国は現時点で対日開戦しないのは自衛隊の能力を認めているのと日米同盟があるためだ。大規模戦闘になれば、米国が参戦してくることを警戒している。

■日中が軍事衝突しないようにするためには、中国の経済改革に欠かせない日本からの投資を行うことと、政治を経済と切り離し、技術を含む投資を欠かさないことだ。中国が開発したものの上に乗せていくための投資を継続することだ。

 

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