『現代ジャーナリズム事典』

写真左=武田徹氏、右=山田健太氏

写真左=武田徹氏、右=山田健太氏

 

テーマ:『現代ジャーナリズム事典』(三省堂)
ゲスト:武田徹・恵泉女学園大教授、山田健太・専修大教授
2014年11月10日@日本記者クラブ

 

国際競争をしていく上で、日本の大きな弱点として指摘されているのはシンクタンク、インテリジェンス、ジャーナリズムの3つだ。

民間の独立系シンクタンクは全く育っておらず、欧米系シンクタンクが垂れ流すコメント・意見・評価などを有り難がって、それへの依存体質は強まるばかり。あるのは閉鎖的な官庁シンクタンクばかりで、とても独立国家とは思えない。

インテリジェンスの弱さは絶望的だ。生の情報・データである「インフォメーション」は馬に食わせるほどあっても、それを自分の役に立つような形に加工(分析・評価・整理)した情報・データの「インテリジェンス」がない。だから、いざというときに動きが取れない。

新聞の歴史はあるものの、ジャーナリズムもそうだ。真実や公益を追求するジャーナリズムの力は衰える一方だ。それでも3.11以降はそれなりの努力が見られるが、まだベクトルは弱い。

現在、日本社会で猛威を奮っているのはジャーナリズムのシステムではなくて、マスメディア・システム。会見した武田氏によると、マスメディア・システムとは「情報価値のあるもの(新しさ・刺激性)とないものを二分して、情報価値のあるものを社会内部に取り入れて、コミュニケーションを継続させる」(ニクラス・ルーマン理論)システムだという。

そのマスメディア・システムが追い求める情報とはつまるところ、センセーショナルでスキャンダラスな情報だ。

しかし、今求められているのは情報価値の刺激によって継続するマスメディア・システムではなく、あくまで真実性、公益性を求めたコミュニケーションを継続的に行うジャーナリズム。今のメディア環境はジャーナリズム・システムを新たに立ち上げる必要性があるのではないか、と武田氏は指摘する。

具体的にはノウハウの積み上げられてきたジャーナリズム技術の活用や、能動的ジャーナリズム表現の実践などジャーナリズム・リテラシーの構築を提案している。その場合、専業ジャーナリスト以外に、ソーシャルメディアで活動する人たちにも参加を求めている。

出版元の三省堂によれば、ジャーナリズムに関するテーマを解説した事典が出版されるのはこれが初めてだという。単なる用語解説ではなく、現在のメディア状況も踏まえた上で内容をジャーナリストらが執筆。大学教授3人が監修した。

ジャーナリズムとマスコミと一緒くたに語られることが多いのが現代だ。自分ではジャーナリストを名乗りながら、「ジャーナリズム」よりも、「メディア」という言葉のほうを意識的に多用している自分を感じている。

ジャーナリズムの中で長年生きてきて、ジャーナリズムはむしろ空気みたいなものだけに、ジャーナリズムを突き詰めて考える機会は多くなかったのが現実だ。批判を含め、ジャーナリズムが抱えている問題は少なくない。

ジャーナリズムの抱える問題をしっかり考えるためにも、その手掛かりが必要だ。それがこれまで無かったことのほうが驚きだ。今日ほどジャーナリズムが必要な時代はない。そんな時代に、『現代ジャーナリズム事典』が編まれたことを喜びたい。

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