さらば！ハンカチ王子・斎藤祐樹＝「どんなに格好悪くても前だけを見てきた。やり続けたことに後悔はない」
甲子園でライバルだった田中将大選手と戦った斎藤祐樹投手（NHK）
■斎藤祐樹が現役引退を発表
日本ハムの斎藤佑樹投手（33）が今季限りでの現役引退を発表した。１５年前、夏の甲子園を「ハンカチ王子」として大いにわかせ、楽天の田中将大（たなか・まさひろ、32）と死闘を繰り広げた姿は今もほとんどの国民の目に焼き付いているはずだ。
斎藤は進学した早大でも日本一に貢献した。しかし自信を胸に進んだプロの道では１１年間でわずか１５勝。楽天から米大リーグに進み、そこでも活躍したライバル田中に差を付けられながらも、2軍で現役にしがみついてきた。
なぜ斎藤は現役にこだわり続けたのか。今回、斎藤と共に高校・大学で野球に打ち込んだＮＨＫディレクターが最後の日々を独自に記録。その姿を19日の『クローズアップ現代＋』で放送した。タイトルは「密着斎藤祐樹 ”ハンカチ王子”最後の日々」。
■大学時代に残した数字と実績
＜高校時代＞
斎藤祐樹は早稲田実業のエースだった。期待されればされるほど力を発揮し、2006年夏、甲子園球場での決勝戦は大向こうをうならせた。駒沢大学付属苫小牧高校（南北海道代表）と早稲田実業（西東京代表）の試合は延長15回で決着がつかず、翌日の引き分け再試合で斎藤が田中に4対3で投げ勝った。
決勝戦の所要時間は24イニングで5時間33分だった。名門・早稲田実業に初優勝の栄冠をもたらした。2006年の斎藤祐樹は「甲子園スター」の1人として輝いた。
＜大学時代＞
兵庫県伊丹市出身の田中が駒大苫小牧へ野球留学の形で進学し、卒業と同時に楽天ゴールデンイーグルスへプロ入団したのに対し、斎藤は早大に進んだ。
斎藤祐樹を語る上で「ＷＡＳＥＤＡ」を外すことはできない。実は甲子園での熱投よりも、プロ野球での11年よりも、早稲田大学での4年間で残した「数字」と「実績」こそ、球史に輝く偉大な成果だとニッポン放送は報じている。
斎藤は入学直後の東京六大学野球春季リーグでいきなりリーグ最多の4勝を挙げ、1年春の投手では史上初となるベストナインに選出。さらにその後の大学選手権でも準決勝、決勝で2勝を挙げるなど早大の33年ぶり日本一に貢献。1年生でのMVPに大会史上初めて選ばれた。
その後も大学時代を通じてコンスタントに好成績を収め、4年間で61試合に登板して31勝15敗。323奪三振、防御率1．77．見事としか言いようのない成績を残した。「30勝300奪三振」は東京六大学野球史上6人目となる快挙。
また世界大学野球選手権大会と日米大学野球選手権大会に大学日本代表として4年連続選出されたのは史上初である。
■「投げっぷりで田中は斎藤より数段上」と星野監督
翌2007年5月20日（日）、薫風の吹き渡る神宮球場で東京六大学野球連盟の早稲田対明治の春季リーグ戦を観戦した。斎藤が投げるとのことで、球場は3万人の大入り満員。プロ野球顔負けの斎藤人気だったことを覚えている。
14年前の60歳になる直前の年だった。日曜日とはいえ、なぜその時間に神宮球場に足を運んだのか忘れたが、超満員の外野席に座り球場全体の高揚感に浸っていた。斎藤も見られ、早稲田も勝って嬉しかったと書いている。
東北楽天ゴールデンイーグルスを球団創設から9年目で初めて日本一に導いた星野仙一監督（故人）が2013年12月3日、日本記者クラブで会見したことをこのブログで書いている。
正直負けられないっていう気持ちもありますし・・・
■「斎藤は高校、大学で使われすぎ」
星野は本音をどぎつく言うので嫌われる面があるのが有名だが、そんな彼は見事に的を得た指摘もしている。私もそんな彼が嫌いだが、楽天に所属し米大リーグに挑戦する田中将大投手と日ハムの斎藤投手について語った言葉が印象深かった。
星野監督は投手のコントロールについて、「田中は斎藤といい勝負だったが、投げっぷりにおいて田中が斎藤を数段上回る」と明言した。投げっぷりがいいとバッターは向かってくる投手に押される。田中はそんなピッチャーだと言った。斎藤については高校、大学時代に使われすぎたとも指摘した。
私は「プロの目からは、そういうことが分かるのでだろう。斎藤には今も期待を持っている。確かに、あまりにも形が美しすぎて、優等生で面白みに欠けているが、何とか這い上がって、星野の鼻を開かせてもらいたいものだ」と彼への希望を当時書いている。
「投げるってことが好きだからここまで続けられると思いますし」
■現役にしがみついたのは「投げることが大好きだった」ため
斎藤は早大から2010年のドラフト1位で日ハムに入団したが、プロ生活11年で15勝しかできなかった。彼はどうみてもイケメン。しかし田中と比較しても線が細いのは確か。線の細い彼が大学4年間でプロに通用する体づくりをする目的もあって進学した。
斎藤は大学2年の時に股関節を故障したことが大きい。このことがプロ入り後に活躍できなかった一因だと指摘する声も大きい。斎藤以前に甲子園を沸かせた投手の中には大学でケガに泣いて野球人生の歯車が狂った選手も少なくない。
NEWSポストセブンによると、1991年、春の仙台育英戦でノーヒット・ノーランに輝いた大阪桐蔭の和田友貴彦は「神宮で野球をやるのが夢」と先輩も多い東洋大学に進学。2年のリーグ戦で春秋合わせて11勝を挙げる大車輪の活躍を見せた。しかし、その後は故障続きで、プロ入りは叶わなかった。
1994年初の準優勝投手である樟南（鹿児島商工）の福岡真一郎は九州産業大学1年の4月の福岡教育大戦で、11打者連続奪三振という福岡六大学野球の記録を樹立。この試合は延長12回188球完投勝利と幸先の良いスタートを切ったが、秋に右肩を痛め、思うようなボールが投げられなくなった。彼もプロ入りは断念した。
2020年12月には「右肘じん帯断裂」を治して来年も頑張ると契約更改した
プロ初登板は2011年。4月17日、札幌ドームの千葉ロッテマリーンズ戦に先発し、5回4失点で初勝利した。投球については変化球が多いことを問題視され、直球の割合を増やすことを課題とされた。
5月8日の福岡ソフトバンクホークス戦（札幌ドーム）は1回を3者凡退に抑えたが、左脇腹の筋挫傷で全治2～3週間と診断され、出要選手登録抹消となった。6月に一軍復帰し、故障もありながらローテーションの一角を担い6勝6敗とまずまずの成績を挙げた。
2012年もシーズンを通じて投球フォームが定まらず、安定しなかった。夏頃から肩に違和感を抱き始めていたが、フォーム調整のために投げ込みを続けた結果、11月の終わりに右肩の関節唇損傷と診断された。
13年も二軍スタート、一軍当番は1試合のみ。14年は7月31日の対ロッテ戦で先発し、毎回走者を出しながらソロ本塁打による1失点で抑え、12年6月6日の対広島戦以来785日ぶりに勝利投手となった。
15年、16年とも未勝利に終わった。ここまでプロで不振続きであるにもかかわらず斎藤がチームに残留している背景には、斎藤の持つ一般的認知度、斎藤の存在による球団のグッズ収入、斎藤がもたらすCM効果などが指摘されている。
斎藤は2020年10月、右肘の靱帯断裂を発表した。
1軍で1回も投げていない中で契約更改されたことについて聞かれ、木田優夫ファーム総合コーチは「特別扱いしてもらうことも実力。プロ野球の世界はそういうものなので・・・」
野球は大好きですけどどっかで自分の人生の中で区切りを決めないと次に進めないなと思った時が今日（引退を決意した日）だったので
■「苦しくてもやり続けたことには後悔ない」
11年間のプロ生活で1軍に登板したのは89試合。通算15勝と振るわなかった。最近は、何度も引退説が取り沙汰されたが、昨年、故障が明らかになった後も「やれるところまでやりたい」と執念を燃やしていたが、どうもその頃から引け際を考えていたようだとスポーツ紙記者らは指摘する。
今年10月3日に鎌ケ谷スタジアム（千葉県）行われたイースタン最終戦は異例の超満員。高校野球時代からのファンも詰めかけ、往年のハンカチフィーバーを彷彿させる盛況ぶりだったという。
10月17日の日ハム対オリックス戦が引退試合となった。斎藤祐樹は引退セレモニーで「ファイターズに入団してから11年間、ファンの方に喜ばれたいと思って、チームの勝利に貢献したいと思って必死に腕を振り続けてきました。諦めて辞めるのは簡単、どんなに苦しくてもがむしゃらに泥だらけになって最後までやりきる。栗山監督に言われ続けた言葉です。この言葉通りどんなに格好悪くても前だけを見てきたつもりです。ほとんど思い通りにはいきませんでしたが、やり続けたことに後悔はありません」と語った。
退団後の身の振り方について斎藤は「年内は日ハムの管轄下にありますので、質問は球団を通していただけるとありがたいです」と語るのみだが、水面下では10月にリニューアルしたばかりのテレビ朝日系の『報道ステーション』のメインキャスターに就任した大越健介キャスターがスポーツキャスターのオファーをしているという。
文春オンラインによると、斎藤の第2の人生について「憧れの人はPL学園の元エースで現在は日本テレビに勤務する上重聡アナ。学生時代から『本当はアナウンサーになりたかった』『野球をやめた後はスポーツキャスターになりたい』と熱っぽく語っていました」（大学時代の友人）。正式退団後には彼の夢が実現するかもしれないようだ。
